アフガニスタン撤収作戦が日本に突きつけたもの

ハミド・カルザイ国際空港周辺の検問所で見張りをするタリバンのメンバー(アフガニスタン・カブール、8月28日)(Photo by Haroon Sabawoon/Anadolu Agency via Getty Images)


まず、確かに日本は韓国に比べ、「自国による救出作戦を行うという決心が遅れた」(政府関係者)のは間違いない。しかし、自衛隊法84条の4は「当該輸送を安全に実施することができると認めるとき」という条件をつけている。岸防衛相が20日の会見で語ったように「現地の治安情勢が急激に悪化した」状態で、自衛隊機を出すのは難しいという判断は責められないだろう。

自衛隊機による邦人等の退避活動は今回で5回目だが、これほど混乱した状況での実施は初めてだった。「やればできるじゃないか」というのは結果論。「もっと早くから作戦を立てるべきだった」と言われても、アフガニスタンでは15日まで商用機が飛んでいた。米軍ですら予想できない状態で、日本だけを責められない。

ただ、自衛隊機の派遣を求めた自民党などの政治家の判断が間違っているわけでもない。当初、日本が頼ろうとした米軍も自国の撤収だけで手いっぱいの状況だったからだ。また、日本政府が米国に自衛隊機による救出活動を行う方針を伝えると、米政府は「素晴らしい」「画期的だ」と全面的な賛意を示したという。この作戦が日米同盟の強化に役立ったことは間違いない。

26日夜の爆発が起きた後でも、27日までの撤収期限を考えて遮二無二、撤収作戦を実施できなかったのか、という指摘もあるだろう。84条の3を使えば、自衛隊員が空港外まで救出に向かうことができるが、それには当該国による秩序維持と同意が必要になる。政権が崩壊し、混乱しているアフガニスタンでこの条項の適用は難しかっただろう。


アフガニスタンのカブールで、カブールから出発する英国軍人(8月28日)(Photo by Jonathan Gifford/MoD Crown Copyright via Getty Images)

一方、「なんで、外務省の職員だけ先に逃げ出したんだ」という指摘も一部起きている。だが、撤収作戦に成功した韓国の場合も、大使館職員らはいったん、国外に退避。撤収作戦の際に一部が現地に戻って調整を行ったのは、日本と同じやり方だった。

また、この撤収作戦では「どうやって出国希望者を割り当てたバスに集合させるのか」「タリバンが空港までのチェックポイントで通行を許可するのか」「空港に到着した後、どうやって人定確認をするのか」という難問が降りかかっていた。問題を解決してから作戦を進めたら時間が足りないので、「走りながらの作戦遂行だった」(関係者)という。

現実に、26日にバスに分乗した際には、懸念されていた「関係のないアフガニスタン人がバスに殺到して混乱する」という事態は起きなかった。現地職員とも常時、連絡が取れていたとう。空港に向かった場合、無事チェックポイントを通過できる見通しもついていたという。そこまで準備した関係者を、やはり責めることは難しい。

関係者の1人は「自衛隊による退避活動が必要な事態であれば、安全でないのが普通。自衛隊を普通の軍隊にさらに近づける努力が必要だということでしょう」と語る。自衛隊関係者も「誰が悪かったのかと、責任の押し付け合いをしている時間はない。台湾や朝鮮半島で同じ事態になれば、自衛隊は脇役ではなく主役になる。日本だけでなく、国際社会からも自衛隊の活躍が期待されるからだ」と語った。

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文=牧野愛博

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