今回アップルが発表したApp Storeの規定改変は、2019年に米国の小規模開発者がカリフォルニア州の裁判所を通じて同社に向けて起こした訴訟の和解案となるものだ。アップルは今回の和解案を作るにあたり、App Storeに対する同社の実践とコミットメントを示しながら、同時にあらゆる規模のデベロッパにとって大きなビジネスチャンスとなり得ること、何よりユーザーが安全にサービスを利用できる信頼性の確保を重視したと説明している。
今回の訴訟を提起したDonald Cameron氏をはじめとする開発者側の原告は、アップルが提示した「さらなる柔軟性とリソースを提供する提案」に合意したと伝えられている。今後App Storeの新しい規定は裁判所の司法審査手続きを経た後、全世界のすべての規模のアプリ開発者に適用される。
iOSアプリ外での追加提案が可能に
今回発表されたApp Storeの主要なアップデートの中で、特に注目したい事項がひとつある。それはデベロッパが“iOSアプリ以外の支払い方法”に関する情報をユーザーに共有できるようになるというものだ。
App Storeでは従来、デベロッパが同様の行為を行うことに対する制限が設けられており、このルールを含むApp Storeのシステムを不当としてアップルを訴えているデベロッパがある。今回アップルは「デベロッパから合意に至るための有用なフィードバックやアイデアを得た」ことを理由にルール変更に踏み切った。
今後は大小の規模を問わず、すべての開発者はiOSアプリの外で、顧客の同意を得たうえで取得した電子メールやSMSの連絡先へ独自にコンタクトを取り、アプリに関連するサービスのオプションを提案したり、アプリ外購入を可能にする自社サイトのリンクなど伝えることができるようになる。
iOSアプリの外で行われた購買活動について、デベロッパはアップルに手数料を支払う必要はない。ただし、デベロッパがユーザーと個別にコミュニケーションを取る際には事前に同意を得る必要があり、アップルはユーザーがこれに同意しない権利も確保されなければならないと注意を喚起している。
このルール変更により、アップルを訴えていた大手デベロッパとの係争が収束に向かう可能性も見えてくる。実際にiOSアプリの外にユーザーを導き、独自の決済システムによる追加のサービスを提案するデベロッパも早々に現れるだろう。
一方で筆者が過去に取材した小規模開発者からは、App Storeを通じてユーザーにアプリやサービスを提供できることにより、煩雑な顧客情報の管理や決済処理をセキュアにできることをメリットとして挙げる声も多くあった。大規模開発者が持てる「インフラ力」の差がサービスの質にも反映され、引いてはアプリを利用するユーザーにも大きなインパクトをもたらすことになるのだろうか。