世界各地でスタートアップ・エコシステムによるアクセラレーション・プログラムに関わり、日本のスタートアップのグローバル展開を支援する独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)のスタートアップ支援課(以下、ジェトロ)は、内閣府の「スタートアップエコシステム拠点都市形成戦略」に基づき、世界トップクラスのアクセラレーターとともに「Global Preparationコース」と「Born Global コース」という2つのプログラムを企画、2020年度に実施した。
本記事では、Global Preparationコースに参加した株式会社TMH(以下、TMH)取締役経営管理部長の関 真希、Born Globalコースに参加したSagri Bengaluru Pvt Ltd.(以下、Sagri)の最高戦略責任者(CSO)である永田 賢から、ジェトロによるアクセラレーション・プログラムを契機に加速したグローバル展開およびその事業について話を聞いた。
(※本記事は独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)による寄稿記事となります)
INTERVIEW 1
株式会社TMH取締役経営管理部長 関 真希
関は、大手グローバルコンサルファームを経て、2015年12月より現職。TMHをリードする若手スタートアップ経営者だ。(写真提供元:TMH)
──オンラインと政府機関主導プログラムが参加の決め手に
当社は半導体製造装置・部品のメンテナンス、および半導体業界向け越境ECサイト「LAYLA」を運営する大分県のスタートアップです。半導体製造装置業界におけるゲームチェンジャーとなるべく邁進しており、2020年には本社を置く大分県から地域牽引企業として選定されました。
これまでは日々の業務に追われ、アクセラレーション・プログラムへ参加する機会は作れませんでした。しかし、コロナ禍ということもありフィジカルな制約なくオンラインでプログラムを受講できること、また、政府機関が主導するプログラムに選抜されて参加できる稀有な機会であることに、地方のスタートアップとして価値を感じ、参加に至りました。
──新たな気付きを得られた助言、今も続くキーパーソンとの出逢い
半導体関連市場は、2030年には世界で100兆円を越える規模に拡大するとも言われています。こうした市場においてLAYLAのビジネスモデルの特性やスケーラビリティを持つのか、プログラムにおけるメンタリングを通じて、改めて捉え直す機会を持つことができました。また我々が認識していた課題のみならず、気づいていなかった課題に対しても、メンターから助言をいただくことができました。具体的には、ロングテール戦略に基づく取扱商材の考え方や、Googleも実践しているという週次でのABテスト等によるグロースハックの運用等々、先進的な内容から地道な取り組みまで、膝詰めで相談できたと感じています。
また、メンターの中には半導体メーカーであるIntel社のOB技術者がいて、LAYLAのサービス価値を高く評価し、期待を寄せてくれました。そのメンターとはSNSでも繋がり、プログラム後も断続的に、米国展開を見据えた戦略についてコミュニケーションを続けています。
──場に参加したからこそ肌で得られた実感・知見・人脈
先輩スタートアップ経営者の経験談が共有されるセッションでは、メルカリの米国進出のエピソードが取り上げられました。米国進出の際に、代表取締役CEOの山田氏は、米国法人CEOに友人関係にあった人物を選びました。この事例は、本気で任せたい市場における人材登用には、数年の時間をかけてでも信頼のおける人材を登用する姿勢が大切なのだということを示しています。これらの体験談からは、海外で経営を任せられる人材を獲得するためには、米国における雇用の相場観だけではなく、必要な時間、熱量、そしてスタートアップ経営者自らが取り組まなければならないコミットメントを肌で実感することができました。
当社は半導体製造装置・部品メンテナンスの事業において既に複数の国の企業と取引していますが、新規事業であるLAYLAをスケールさせていくのに不可欠な知見や人脈を、今回のアクセラレーション・プログラムを通じて獲得できたと感じています。
INTERVIEW 2
Sagri Bengaluru Pvt Ltd.最高戦略責任者(CSO) 永田 賢
永田は、2019年9月インドのベンガルールにSagriが設立した現地法人の責任者を務める。(写真提供元:Sagri)
──内容豊富で魅力的な世界トップクラスのプログラム
Sagriは、衛星測位データと機械学習、そしてポリゴン技術を掛け合わせて農業課題や環境課題への解決に取り組むスタートアップ企業です。私はこれまでも国内アクセラレーターが開催するアクセラレーション・プログラムに参加したことがありましたが、今回のプログラムは世界トップクラスのアクセラレーターによる運営というだけあって、内容・質ともに素晴らしかったです。
プログラム後の今でも、メンタリングを通じて指導いただいた「短時間内で効果的に伝える」プレゼンの作り方・話し方、「営業先の意向を想定して考える」仮説の立て方などの具体的なノウハウを、事業開拓へ活かしています。また、私はインドでの生活が約4年にわたり、悪い意味での慣れがあったと反省していたのですが、海外でのビジネス・コミュニケーションの基礎的な部分についても改めて指摘いただけたのは、このプログラムならではの価値だったと感じています。
──ネットワークから始まった未開拓の出会い
アクセラレーターのネットワークから、Google for Startups JapanのトップであるTim Romeroさんとお話しする機会もいただきました。彼が主宰する「Disrupting Japan」というPodcast番組で、Sagriのサービスをご紹介いただいた結果、その番組を聞いた米国やシンガポールのVC(ベンチャーキャピタル)から問い合わせがあり、自分たちだけでは開拓できないチャンスを得られることができました。
また今では、東南アジア・南アジアで活躍する日系スタートアップのアグリテック企業の代表事例として、アクセラレーターを通じ海外から問い合わせを受けたり、紹介されたりする機会が増えてきています。
──本質への問いを徹底的に考え抜いたことで生じた変化
プレゼン指導というと、表現等の表面的な指摘を受けるだけのように聞こえるかもしれませんが、プログラムを通じてメンターからは徹底的に“叩きこまれ”ました。「どの顧客のどんなペインを解決するのが、自社が提供できるサービスなのか」という事業の価値を考え抜くことを、何度も繰り返し問われたのです。
今回のアクセラレーション・プログラムに参加したことで、今後の事業戦略が変わったと私は感じています。実際、何年も前から折衝していた企業とのコミュニケーションにも進捗が見られるなど、事業が前進している感触を日々実感しています。
更なる高みを目指し進化するアクセラレーション・プログラム
2021年度ジェトロは、スタートアップが海外で販路開拓や資金調達することを支援する「Global Scaleコース」をはじめ、分野特化型の「Enterpriseコース」「Bio/Healthcareコース」「Clean Techコース」を設置。また、大学発スタートアップおよび起業前のアカデミアを対象とした「Universityコース」を設け、スピード感のあるグローバル展開を強力に後押しする。一方、本格的なグローバル展開を前にマインドセットなど海外ビジネスの基礎知識習得を目指す「Global Preparationコース」を前年度に引き続き設け、海外に距離感を抱くスタートアップの底上げを図り、グローバル展開を身近に感じられる支援を行う。
本プログラムは、日本のスタートアップにとってはこれまで機会が少なかった世界トップクラスのアクセラレーターのノウハウを直接学べる貴重な機会となり、グローバル展開、世界的なネットワークへの関係構築にも繋がる。エコシステム関係者にとっては日本国内における横の連携強化や、地元スタートアップの海外へ向けたPRが期待できる。海外アクセラレーターにとっては、日本への足掛かりや新たな投資先・マーケットの開拓に繋がるという、まさに「三方よし(Triple WIN)」が期待できる。
ジェトロは各者の結節点、扇の要となり、これらのプログラムを運営する。ジェトロスタートアップ支援課長の島田英樹は、「この取り組みが、日本発のグローバルスタートアップを生み出す第一歩となることに大きな期待を抱いている」と話す。各プログラムの詳細については下記リンクURLより応募要項をご確認いただきたい。スタートアップとともに、社会を変革するイノベーションを起こすために、ジェトロは全力で取り組む。
JETROスタートアップシティ・アクセラレーションプログラム
URL:https://www.jetro.go.jp/services/startup_city