英国で急増する児童の性的被害「グルーミング」をめぐる議論

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英国では9月から、インターネット上の有害コンテンツや、いじめ行為を排除するためのオンライン安全法案(Online Safety Bill)の審議が始まるが、全英児童虐待防止協会(NSPCC)は、英国内での「オンライングルーミング犯罪」が過去3年間で急増していると発表した。

グルーミングとは、性的目的で児童に接近し、信頼を得ようとする行為や心理的プロセスのことで、欧州議会も7月にグルーミングや児童ポルノの根絶に向けた緊急措置を発動した。

NSPCCよると、イングランドとウェールズの42の警察から入手したデータから、2020年4月から2021年3月の1年間に、5441件の児童のグルーミング犯罪が発生していたことが判明したという。この件数は、2017〜18年の1年間から70%増加し、過去最高となっている。

犯行のほぼ半数は、インスタグラムやWhatsApp、メッセンジャーなどのフェイスブックが運営するアプリを使って行われており、インスタグラムが約3分の1を占めていた。さらに、スナップチャットも全体の4分の1以上を占めていたという。

NSPCCによると、昨年の下半期には2つの技術的な不具合によって、児童虐待コンテンツの削除数がこれまでの半分以下になったというが、フェイスブックは同社が適切な児童保護の取り組みを行っていると主張している。

「当社は、問題があるコンテンツを発見した場合、すみやかに削除し、当局に報告している。また、大人が見知らぬ18歳未満の子供にメッセージを送れないようにするためのテクノロジーを導入している」と、フェイスブックの広報担当者は述べている。

NSPCCはさらに、フェイスブックに対し、児童保護ツールが完全に機能していることが証明できるまでの期間、メッセージの暗号化を中止するよう求めている。

メッセージの暗号化の是非


NSPCCの子どもの安全に関するオンライン政策の責任者のアンディ・バローズは、「脅威の規模と複雑さに対応するために、政府は子どもの保護をオンライン安全法案の中心に据え、虐待を防ぐために必要な措置をすべて実行に移さねばならない」と述べている。

しかし、ここで課題となるのは、これらの目標を具体的にどのように達成していくかだ。3月に発表された報告書の中で、現在の保健省長官のサジッド・ジャビットは「暗号化のようなリスクの高い機能の導入が、ユーザーのプライバシー保護や金融犯罪の防止などのメリットをもたらすと主張するのは、無理がある」と述べていた。

しかし、非営利組織のInternet Societyは、「メッセージの暗号化を弱めたり、削除したりすることは、子どもを含むすべての人を、より大きなリスクにさらすことになる。暗号化が無ければ、子どもたちのメッセージが第三者に見られることになり、彼らが助けを求めるためのライフラインが奪われてしまう」と反論している。

メッセージの暗号化に反対する人々は、暗号化によって犯罪の捜査が困難になると主張するが、暗号化を解除すれば、子どもたちのメッセージが犯罪者に傍受され、それが新たな被害につながることも想定できる。

編集=上田裕資

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