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2021.09.28 16:00

アスクル創業者 岩田彰一郎×セーフィー代表取締役社長 CEO 佐渡島隆平 アスクル創業者がセーフィーのビジョンに共感する理由

クラウド録画サービスの領域でシェア1位を獲得(テクノ・システム・リサーチ調べ)し、弊誌の「日本の起業家ランキング2021」でも同社代表取締役社長 CEOの佐渡島隆平が1位に輝いたセーフィー。

急成長を続ける同社は昨年、社外取締役にアスクル創業者の岩田彰一郎を迎えた。岩田はセーフィーのどこに共感し、何をもたらすのか。ふたりが同社の進むべき方向性について語り合った。



心臓移植のための募金活動にも携わるふたり


佐渡島隆平(以下、佐渡島) 岩田さんとは偶然にも家が近く、プライベートでもお世話になっております。

岩田彰一郎(以下、岩田) 一緒に募金活動もやっていますね。

佐渡島 私の子どもが通う幼稚園で知り合った、3歳のきかちゃんという女の子が「拡張心筋症」という重い心臓の病気を抱えていて、余命1年あまりで4歳の誕生日が迎えられるかもわからない状態で、生きるためにはより可能性の高いアメリカで心臓移植手術を受ける必要があるのです。

岩田 3億5,000万円が必要なので、ベンチャー企業の資金調達よりも難しいチャレンジです。でも、アスクルの社長を退任してからは社会に恩返しをしたいという思いが強くなり、微力ながらお手伝いをさせていただいています。

実はフォース・マーケティングアンドマネージメントを設立したのも社会への恩返しが目的で、若い経営者を応援したいのです。


フォース・マーケティングアンドマネージメント 代表取締役CEO 岩田彰一郎

佐渡島 アスクルさんは、創業して最初に利用するサービスです。事務所を借りた際に大きな机を買ったのですが、部屋が狭すぎて入りませんでした。箱を開けて組み立てた状態だったのですが、アスクルさんに返品できないかを問い合わせると、配送の人が快く取りに来て、別の商品に交換してくれました。こういう会社にならなければと、起業初日に痛感させられました。

我々はソニーから飛び出して起業しているというのもあって、技術さえよければそれでいいと思うときがありました。いい製品をつくっていれば売れるはずという思い上がりがあったのですが、岩田さんにお話を伺って、顧客のために1つずつ積み上げていく“商人魂”を感じました。

岩田 アスクルが誕生する前に、21世紀の新しい流通を考える「ブルースカイ委員会」が立ち上げられたのですが、そこで出てきたキーワードのひとつに「お客様は誰か」があります。セーフィーにはさまざまな代理店さんとのお付き合いがありますが、お客様はカメラを使ってくださっている方であり、その方々の満足なくしてセーフィーは存在しえません。

佐渡島 岩田さんに取締役にご就任いただいてまずやっていただいたのは、まさにそのことをご教授いただくためのワークショップでした。お客様至上主義と聞くと「お客様は神様」となりそうですが、そうではなく、お客様と向き合うことが企業の足腰となって盤石な基盤を構築するということです。特に我々のような若い会社は、今日、明日だけでなく、持続的にお客様と向き合っていくことがいかに重要であるかを学びました。


セーフィー代表取締役社長 CEO 佐渡島隆平

経営者はどんな小さなリスクも放置してはならない


岩田 会社は社会の公器であり、社会の中の人々に支持されることで繁栄していきます。社会に関わることで、世の中のたくさんの人を幸せにできるのです。その前提として必要なのは、働く人たちみんなが幸せでいられる会社モデルと、勝つためのビジネスモデルですが、佐渡島さんは同じ価値観をもっていると思っています。会社はすべてオーナーのものだという傲慢さがないですし、みんなで新しい価値をつくっています。

佐渡島 我々はセンシティブなデータを世の中から集めているので、会社が誰のものかが不明瞭だったら社会全体から否定され、会社の存在意義そのものがなくなってしまいます。岩田さんは「データの民主化」をいろいろな勉強会でご主張されていて、我々もまさにそれを徹底しなければならないと思っていました。

それで社外取締役は岩田さんしかいないという結論に至ったのです。岩田さんはテクノロジーやデータへの目線が先進的ですし、我々のパートナーである大企業の皆さんが納得できるガバナンスを学びたいという思いもありました。

岩田 社外取締役となると、ガバナンスに対する責任は重大であり、お話をいただいてから慎重に考えました。ただ私はいろいろな状況を経験しており、それを生かすことで社会に恩返しができるいい機会だと考え、お受けすることにしました。

私が取締役に就任してから、『AIと憲法』(日本経済新聞出版)の著書で知られる慶應義塾大学の山本龍彦教授をご紹介し、「データガバナンス委員会」を立ち上げました。セーフィーはAI社会やカメラ社会の中での基本的人権が何であるかを考え、明確なポリシーを打ち出せる会社であるべきです。

みんなで青臭く議論していますが、アスクルも元々は青臭い会社だったので、セーフィーにはすごく共感しています。セーフィーはいい会社になれる要素に溢れていますが、ベンチャー企業が成長していくためには、いくつもの落とし穴があります。そうしたことに陥らないよう、アドバイスをしているつもりです。

佐渡島 当社は実際にものを取り扱っていますので、安全を脅かすことやインシデントが起きることもありえます。我々は成長を第一義に考えてきたので、そうした危機対応がウィークポイントでした。過去のアスクルさんでの倉庫火災や、環境問題の1つの表記ミスで全カタログの回収を余儀なくされるか、との状況等、岩田さんにはそうしたさまざまな危機対応をしてきた経験があります。それらは我々にとって、非常に参考になるお話です。

岩田 経営者はどんな小さなことからも逃げてはならず、真正面から正しい判断をしていかなければなりません。会社にはいろいろなことが起こりますので。

佐渡島 会社が急成長している最中なので、起きないほうがおかしいと思っています。こういうデータの使い方やカメラの使い方をしたらおかしいのではないかという判断は、法律に違反しているかだけでなく、自分たちの倫理観として正しいかどうかが重要だということを岩田さんから学びました。

例えば当社の「Safie Pocket 2(セーフィーポケットツー)」は身に付けるタイプの製品なので、もしカメラが熱をもって発煙したら、 ユーザーはケガをしてしまいます。我々は、そうした問題が起きてしまったときに、当事者の方に誠実に対応をすればいいと考えていたのですが、岩田さんからすればそれでは甘い。まず電池の構造を見直すべきですし、万が一を考えて当局に相談するなどし、社会がそのインシデントについてどう思うかを考えなければならないというご指摘を受けました。



岩田 1つのリスクを見逃すと、4つも5つも同じかと、どんどん対応が後手に回ってしまいます。最初の1つの情報が上がってきた時点で、トップを中心に最悪の事態を考えることが重要です。本来は、当局に相談してアドバイスをいただくというのが社会のルールとしてあるわけですが、ベンチャー企業はそれを知らないケースが多い。社会が決めているプロセスをちゃんと踏んでおくことも重要です。

佐渡島 ご指摘を受けたその場で危機管理の専門家をご紹介いただき、数分後には危機対応が始まっていたことには驚きました。



「三方よし」で社会の最適化を目指すプラットフォームを構築


岩田 これからの社会は勝者が総取りする「ウィナー・テイク・オール」ではなく、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」や自然との共存といった日本的価値観が重要になります。日本はデータの空洞化が起きていて、あらゆるデータをテックジャイアントに握られています。

しかしデジタル資本主義の時代では、データが個人や社会に還元される「データの民主化」が必要です。データをもっている人が勝ち続けるのではなくて、三方よしの仕組みでみんながベネフィットを得る。セーフィーはそういう価値観を大切にしています。

佐渡島 我々はプラットフォーマーとしてのあり方を模索しています。優秀な人たちが企業の看板に関係なく集まり、我々のデータを活用して新しいアプリケーションを開発し、その人たちが儲かる仕組みをつくっていきたいのです。

それを皆さんが共感できる形で進めることによって、新たな付加価値を生んだり、社会の標準化や働き方を変えたり、コロナ禍における新しいイノベーションが起こせるようになると考えています。

岩田 大企業だけでなく、中小や個人経営の方々も使えるようなプラットフォームになればいいと思います。映像データにはさまざまな情報が凝縮されており、これから先もあらゆるDX(デジタル・トランスフォーメーション)のリソースとなることは間違いありません。それらが正しく使われれば、みんなが安心してオープンイノベーションを起こすことが可能になります。これから先、安全・安心なデータ活用に向け、ガバナンスの問題に徹底的に取り組んでいきます。

佐渡島 それが社会の最適化につながっていくことが大事だと思っています。例えば建設業界のユーザーが安全対策のアプリを開発したら、それを自社だけで使うのではなく、当社のプラットフォームを通じて販売すれば業界全体の安全性が向上します。アプリを開発した会社の利益にもなりますし、データも活用できます。我々が目指しているのは、三方よしの精神で社会を最適化するプラットフォームの構築なのです。

セーフィー
https://safie.link

きかちゃんを救う会
https://www.think-about-kika.com/entry_report.php?eid=104352

佐渡島の子どもが通う幼稚園で知り合った、きかちゃんのアメリカでの心臓移植手術を実現させるため、同園の園児の保護者が中心となり発足。佐渡島と岩田も会に賛同し、街頭での募金活動などを行なっている。





佐渡島隆平◎セーフィー代表取締役社長 CEO。甲南大学在学中の1999年にDaigakunote.comを起業。2002年にソニーネットワークコミュニケーションズ入社。モーションポートレートを経て14年10月、森本数馬、下崎守朗と共にセーフィーを創業。

岩田彰一郎◎慶應義塾大学商学部卒業後の1973年、ライオン油脂(現ライオン)に入社。86年にプラス入社、97年にアスクル代表取締役社長に就任。2000年より同社代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)。2006年より資生堂社外取締役、2008年より経済同友会副代表幹事を歴任。19年8月にアスクル代表を退任、9月にフォース・マーケティングアンドマネージメントを設立し、代表取締役CEOに就任。

Promoted by safie / Text by Fumihiko Ohashi / photographs by Shuji Goto / edit by Akio Takashiro

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