2019年10月に次世代アートコレクターのためのサブスクリプションプラットフォームCurinaを起業しました。現在は10万〜500万円ほどの現代アート作品を、月額38ドル、88ドル、148ドル、348ドルの定額制とし、レンタル期間終了後は購入も可能としています。おかげさまで登録ア ーティストは約120人、作品数は1500点以上。会員の9割となる20〜30代の半数以上は「Curinaを通じて人生初のアートをレンタルまたは購入」とのことで、うれしいかぎりです。
アートとの出合いは思春期にさかのぼります。11歳でイギリス在住となり、家族で美術館によく通いました。それぞれの作品がどうして評価されているのか、美術史においてはどんな意義があるのかなど、とても興味深く感じ、そのうち作家が実際に住んでいた家や風景画として描いた場所などを訪れるようになりました。
いまも週末は美術館に行ったり、バレエやオペラ、ミュージカルを観に行ったりしています。オペラの魅力は、歌声だけで観る側の心が揺さぶられること。バレエは視覚的な美しさ。体の動きだけでストーリーやキャラクターの心情を表現するというのも奥深いです。
MBAの学生時代はお金に余裕がなく、よく1階のいちばん後ろの立ち見席で観ていました。あるとき幕間に高齢のおじいさんがやって来て、「僕は疲れたからどうぞ」と最前列の席を譲ってもらったこともあります。老若男女問わず芸術を楽しむNYならではの出来事です。
アイデア出しのためには、読書、ソーシ ャルメディアでの観察、起業家やアドバイザー、投資家への相談、チームメンバーの声によく耳を傾けることを課しています。
チームではこんな楽しい経験もしました。 2019年12月、ローンチ3カ月後に弊社のサービスについて話題を集める方法をブレインストーミングしたときのこと。当時、アメリカ最大級のアートフェア「アート・バ ーゼル・マイアミ・ビーチ」で、マウリツ ィオ・カテランの作品「Comedian」が話題となっていました。
本物のバナナを灰色の接着テープで壁に貼り付けただけの作品なのですが、展示初日になんと12万ドル(約1200万円)の価格で売れたのです。「これをアートと言うのなら、自分たちでもつくれるぜ」ということで、私たちはバナナを1000本購入し、紙の表にバナナをガムテープで貼り付け、裏には弊社サイトのQRコードを印刷し、MoMAの前などで無料配布しました。これがSNSでかなりウケて、カテランさんご本人からもコメントをいただきました。こういうアイデアはやはりひとりでは思いつきません。
あと、メトロポリタンミュージアムの前で配ったときは美術館スタッフに制止されたのですが、駆けつけた警察に「アート作品を無料で配っています」と説明したところ、「食料を配っているのではなく、アート作品を、しかも無償で配っているんだね。なるほど、法律には反していない」と私たちを守ってくれました。 “なんでもあり“の自由な街は、私にとって住みやすくも生きやすくもある場所。ここで信頼できる仲間とともにアートに関する事業を展開できることが、最高に楽しいです。