招致決定から8年あまり、日本が東京五輪で得たものは

2013年9月7日撮影、Getty Images

東京五輪のレガシーを予測することは不可能だが、少なくともはっきりしていることがある。日本の菅義偉首相もその所属政党である自民党も、思い描いていたような政治的「金脈」を掘り当てられなかったということだ。

確かに、アスリートたちは「金」を獲得した。日本は史上最多の金メダルを獲得したのだ。だが、その勝利はすでに、新型コロナウイルス感染症の記録的拡大の渦中で、視界から薄れつつある。予算超過や、国際オリンピック委員会(IOC)の大物たちによる植民地時代のような振る舞いをめぐって、水が滴るようにぽつりぽつりと出てくるニュースも、国民の幻滅に拍車をかけている。

与党である自民党にとって、状況はきわめて危うくなっている。10月21日の任期満了までにおこなわれるはずの総選挙の延期の話が出ているほどだ。菅政権の支持率が良くて30%台前半まで落ちこんでいる現在(8月21日時点)、自民党はパンデミックよりも、むしろ選挙での惨敗をおそれているように見える。


Photo by Carl Court/Getty Images

過去8カ月ほどのあいだ、菅政権が五輪の実現に注ぐ努力に多くの関心が向いてきたが、いまこそ、過去8年のあいだに日本の政権が無駄に失ってきたものについて話すべきときだろう。

いや、「8年あまり」と言っておこう。2013年、菅首相の前任者である安倍前首相は、東京での五輪開催を勝ちとった。首相に指名された10カ月後のことだ。アジア2位の経済大国、日本にとっては興奮の瞬間だった。当時の安倍氏は、中国との競争に敗れつつある、古びて硬直した経済を改革しようと奮闘していた。

というよりも、騙されやすい大衆はそう考えていた、と言うべきだろう。安倍氏が、労働市場の緩和、官僚主義の改革、起業の促進、女性の地位向上、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の国際化といった壮大な計画を打ち出すのに合わせ、日経平均株価は2013年だけで57%も急騰した。

その興奮は、時とともに冷めていった。そして、2020年はじめに新型コロナウイルス感染症が到来すると、取り残された人々はようやく、自分が騙されていたことに気づいたようだ。この8年のあいだ、自民党は日本の経済を浮上させてきたはずだった──だが、実はそうではなかったのだ。

安倍氏に率いられた自民党は、なんといっても、それまでの日本の政権にはなかった3つのものを手に入れた──衆参両院での過半数、長年にわたって高い支持率を保つ首相、そして改革を実施するためのあり余るほどの時間。それで、自民党と安倍氏が、そして現首相の菅氏が、人々に与えたものは何か? 一度の五輪開催だ。
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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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