ビジネス

2021.09.06

「デザイン視点」はスタートアップに何をもたらすのか?

(c)IDEO


医療機関向けに問診事務の効率化を目的とするサービス「AI問診ユビー」を提供するUbieの事例を紹介しよう。Ubieは、医師とエンジニアの2名が共同創業者として設立した医療系スタートアップだ。

公園で高齢者にヒアリング


創業当初、同社はデザインを重視していたわけではなかった。むしろ医師の知識とAIの技術があれば事業の成長が見込めると考えていた。しかし、実際のユーザーにプロダクトを使ってもらうと、そのユーザビリティが大きな障壁となっていることが判明した。

「AI問診ユビー」は、ITデバイスを用いて問診票の記入を簡略化し、医師による診察や事務手続きをスムーズに行うというプロダクトだが、そういったものに不慣れな高齢者にとってはUXが複雑すぎたのだ。医療機関の受付担当者は、「使い方がわからない」というユーザーの対応に追われることになった。

業務の効率化を図るはずのプロダクトが業務の妨げとなってしまい、多くの医療機関が解約してしまう結果に。このとき創業者の二人はUI/UXの重要性を痛感したという。しかし当時のUbieにはデザイナーがおらず、何から始めれば問題を解決できるのか頭を悩ませた。

そこで、D4Vのデザインサポートを活用。デザイナーと話し合いを重ねると、ユーザーのニーズやペインを明確に把握できていないことがわかり、オフィス近くの公園で、高齢者を対象にユーザーインタビューを行った。



「AI問診ユビー」のUIイメージを何種類か見てもらいながらヒアリングすると、最も好感触を得たのは「カラオケの電子リモコンみたいなUI」だった。当時のプロダクトとは大きく異なるものだったが、ユーザーの声を反映させることに徹し、改良を重ねてシンプルなUIに刷新。全体のUXとしても、親しみが増し、誰もが直感的に操作できるようになり、医療機関においても本来目的としていた業務の効率化に大きく貢献した。

デザインでスタートアップの成長を加速


人間中心デザインおよびその視点を持つことの重要性を学んだUbieでは、これを機にデザイナーを採用。そのデザイナーを中心として、今では経営陣のみならず組織全体がユーザー視点を持つようになり、それを基軸としたプロダクトの開発を行っている。

経営者自身がデザイン視点を取り入れるだけでもスタートアップの成長率は大きく変わり、それを専門とするデザイナーがいると組織内における意識も変わっていく。そうした意識の変化はいずれ社内に文化として根づき、意識せずともデザイン視点を持って全社を挙げてプロダクトの開発に取り組めるようになる。

スタートアップにとって、UX/UIの価値追求はプロダクトの質を左右する要素であり、事業の拡大成長を加速化させる起爆剤であるとも言えるだろう。そのためにもデザインの力は不可欠なのだ。

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文=IDEO(D4Vベンチャーキャピタリスト飯田麻衣​、デザインディレクター高橋 亮)

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