ここでは、その陽の目を浴びなかった観戦体験をいくつか紹介したい。
一つ目は、「東京 2020 リアルタイムリモート応援プロジェクト」。
五輪最終日に東京で行われる予定だったマラソンが、IOCの独断により札幌で開催された点にヒントを得た。これは東京にいながらにして、あたかも札幌のコースの沿道にいるかのように声援を送ることができるものだ。
札幌のコース脇には4K大画面スクリーンが並べられる。沿道には50mに渡ってLEDディスプレーを配置し、東京と札幌に8台ずつ光学カメラを並べ、相互通信で画像、音声を届ける。
東京にも同規模のスクリーンを配置し、コースを駆け抜けて行くマラソン選手たちがリアルタイムで映し出される。スクリーンに向かって選手たちに声援を送ると、札幌のスクリーンに声援を送る姿が表示され、同時に選手にも声が届く……言葉で表現するとひどくシンプルなカラクリではある。
提供=(c)NTT
しかし技術的には、4Kレベルの映像伝送の通信遅延を、東京・札幌間およそ830km以上の片道距離で、約20msec(0.02秒)まで削減した。通信速度は従来から100分の1にまで短縮され、これまで実現不可能だった新たな観戦形態を演出してみせた。
無観客の決定がなされなければ、東京にいながらにして、秒速5mで駆け抜ける選手へ、札幌から応援を届けることができたと考えると、なかなか新しい試みだったと想像できる。
2つ目は、「TOKYO 2020 5G PROJECT」と銘打った企画。セーリング会場に設置した洋上ワイドビジョンに、上記のマラソンと同様の技術を用い、選手の家族・友人等からの応援の模様をリアルタイムで選手に届けた。
提供=(c)NTT
こちらも観客を入れることができなかっただけに、身内だけの応援に終始してしまったが、関係者の声援だけでも選手に届けようと、NTTはパラリンピックでも同様の企画を実施する予定だ。