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2021.08.26

「木のソーダ」で山林を救う 石川県白山市の循環型プロジェクトとは

(左から)fabriqプランナーの三嘴光貴、代表取締役の高平晴誉

日本の山林が危ない。

日本では戦後、復興のための「拡大造林政策」で山林に針葉樹(スギ・ヒノキなど)を植えて人工林をつくり、木材自給率9割以上を達成した。しかし現在、「木材」として利用されている国産材は3割のみ。価格の低い外材の輸入自由化の影響で需要が減り、山林には7割の木材が残されたまま、手入れがされない状態となっている。

石川県南部に位置する人口約11万人のまち、白山市もそんな「人工林」を有する。県内最大の河川・手取川の流域で、日本三名山の白山を有する自然豊かなまちだが、白山のふもとには、適齢期を迎えたものの需要がなく生えっぱなしになっている木材や、間伐後に放置された木材が多数残されている。そのままにしていては、下草が生えず土壌が失われて土砂災害の原因になったり、高齢の木ばかりで二酸化炭素の吸収量の低下につながったりと、様々なリスクが高まる。

こうした状況を改善するには、放置されている木を「使う」しかない。

クリエイティブ会社fabriq(東京・渋谷)代表取締役の高平晴誉は、撮影のロケ地として白山市を訪れた際にこの事実を知り、「クリエイティブの力で何かできないか」と考えた。そして2020年、「木を使い山を育てる」というミッションのもと、木づかい運動を推進するプロジェクト「QINO(キノ)」を設立。撮影で世話になった同市のアロマ蒸留所「EarthRing」を中心に、地元の企業・学校・行政へと輪を広げ、産官学連携の地域共創プロジェクトをスタートした。

「木」の使い道、どうする?


プロジェクトの目的は「木の新しい使い道を発明し、有効利用されるために必要なアクションをとること」。

ポイントは「循環型」だ。「地元の林業者から未利用の木材を買い取り→市内の工場で加工→製品化・販売→収益を森づくりに充てる」、というサイクルを確立している。このサイクルを成り立たせるためには、「地域経済が生まれる座組み」と「消費されるモノ・コト・体験の創造」が不可欠だという。

高平は「スピーディーに地域経済を生むために、補助金の採択を待ってスタートする形ではなく、当社が出資する形を取りました。中長期的には地域内で自走できるように収益力を上げていきたい」と話す。

具体的なアクションは、地元議員である中野進市議会議員のアドバイスのもと、林業・蒸留所など20人のプロジェクトメンバーとともに企画。第一弾は樹木のドリンク「QINOSODA(キノソーダ)」の商品化に決まった。スギの間伐時に一緒に切って捨てられることの多い「クロモジ」を活用した炭酸水で、グリーンや柑橘、茶葉のような香りが特徴だ。

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クロモジの葉/fabriq提供

商品開発を担当したプランナーの三嘴光貴は「化学添加物を一切使用せず、天然香料のみを使用することで、クロモジそのものの香りを感じられる飲み物を目指しました。廃棄されることもあるクロモジに、品格のある香りや抗菌作用などのポテンシャルがあるように、日本の里山にも、秘められた魅力が沢山あることを感じてもらえたら嬉しいです」と説明する。

生産はもちろん地域完結型。林業の「白峰産業」からクロモジを買い取り、アロマ蒸留所「EarthRing」とクラフトビール醸造所「オリエンタルブルーイング」で加工している。ラベルアートは石川県の就労支援施設の会員から募集した122点から1作品を選んだ。


樹木のドリンク「QINO SODA」/fabriq提供

商品は2021年7月からMakuakeで販売。330ml入り6本セットが4000円(税込、通常価格)で、売上の一部が山林の間伐費用などに充てられる。まずは最低ロットの7200本から生産をスタートし、白山市民が1人2本購入した計算となる「22万本」の完売が目標。「飲むことで森林環境にエールを送ることができる商品としてアピールしていきたい」と高平。
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文=田中友梨 写真=小田光二

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