佐藤正午の「映像化不可能」な小説をミステリーに昇華|映画「鳩の撃退法」 

物語は、主人公が執筆している小説を辿るような形で進行していく 『鳩の撃退法』(c)2021「鳩の撃退法」製作委員会 (c)佐藤正午/小学館


「脚本開発には、なんだかんだ2年くらいかかっています。最初に勧められて原作を読んだのですが、これが読むのをやめたくないくらい面白くて、上下巻では物足りない、ずっと読んでいたいという気持ちになりました。でも、これを映画にするのにはどうしたらいいのだろうと戸惑いを覚えたのも事実です」

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タカハタ秀太監督

タカハタ監督は映像化を思案するうちに、時間もたってきてしまったので、とりあえず原作を忠実にそのまま脚本スタイルで移し替えてみた。自分なりの新たな結末も付け加えたが、それでも原作の面白さから比べると、とうてい納得できるものではなかったという。

正式に映画化にゴーサインが出て、映画会社からも250館以上で公開したいので、エンターテインメントの要素を盛り込んで欲しいというリクエストも監督のもとに届いた。

「エンタメの要素ということで、カーアクションとかも考えたのですが、それだと原作から離れすぎてしまう。1回ベースとなっていた脚本を無しにして、新しい発想でつくってもらおうと、他の脚本家の人にも入ってもらいました」

共同脚本としてクレジットされている藤井清美が加わり、新たなシーンも追加され、なんとかいけるのではないかとタカハタ監督も自信を持ったという。

映画本編にも、タカハタ監督の原作へのこだわりは随所に散りばめられており、原作に登場するいくつもの印象的なセリフが、主人公役の藤原竜也をはじめ登場人物の口から絶妙の抑揚をつけて語られていく。

また、たびたび採り入れられているローアングルからのショットも、物語にミステリアスな雰囲気を醸し出しており、堀込高樹(KIRINJI)の音楽とも相まってクオリティの高いサスペンスを演出している。

そしてなによりも、映画「鳩の撃退法」には、タカハタ秀太監督の原作へのリスペクトが全編に注ぎ込まれ、横溢(おういつ)している。それが「映像不可能な原作」を、完成度の高い作品へと導いたようにも思える。

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『鳩の撃退法』(c)2021「鳩の撃退法」製作委員会 (c)佐藤正午/小学館 2021年8月27日(金)公開

映画監督も同業者の作家も魅了してやまない佐藤正午の小説「鳩の撃退法」、小説成立の際、多少の関わり合いを持った筆者としては、ぜひこの機会に手をとって読んでみてほしいと考えている(すでに読んでいる人は再読を)。タカハタ監督も語るように、読むのをやめたくないくらい面白いこと必至だ。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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