「うちのビジネスの3本柱は、アマゾンカカオの輸入卸、菓子製造、ガストロノミーレストランです」と太田氏は言う。その一つずつの現状と社会的意義を見てみよう。
カカオの輸入卸のほうは前述の通り軌道にのっており、村民たちがより豊かになれるように、売り上げに応じて、設備投資に回している。たとえば、撹拌機に金属探知機をつけるという作業もその一つ。規制が厳しく、金属片が混入すると輸出できない欧米に販路を広げるために対応している。
「今年から、カカオそのものの輸出だけでなく、現地でクーベルチュールに加工して輸出する試みを指導しています。クーベルチュールとは、いわゆるコーティング用のチョコレートのことで、カカオ分35%、カカオバター31%以上を含有するという国際的な規格があります。カカオでの取引より利幅が大きくなり、村民たちが得られる利益が多くなります」と太田氏は言う。
ペルーの人々と太田氏がウィンウィンの関係を保ち続けているところが、アマゾンカカオプロジェクトが長いスパンで成功している理由であろう。
お菓子で広く、料理で深く
二つ目の柱、菓子製造について、太田氏はそのメリットを次のように力説する。
「レストランにできることって、ある意味、すごく限られていると思うんです。うちの場合レストランのお客様は年間で100人弱。でも、お菓子なら1日30個、年間で1万個以上を売ることができます。それに、1万円を超えるレストランに行く人は、ほんの一握りの層だけ。けれどお菓子なら、多くの人が食べて幸せになることができます。なかには、カカオ産地の現状に興味を持ってくれる人もいることでしょう。訴求力としては、お菓子のほうがはるかに大きいのです」
アマゾンカカオで作るフォンダンショコラ(左)、信州イチゴと未脱臭カカオバターを使ったジャム(右)
この3年間は、菓子製造の手伝いに、地元の高校生を雇用してきた。3年間の成長を見るのは、自身にもとてもプラスになったという。また、軽井沢にある養護施設へクリスマスなどにお菓子をプレゼントする活動も続けている。その場で話す機会があるときには、いつも、お菓子とともに著書『アマゾンの料理人』を持っていき、世界を回った経験や料理人という仕事の多様性を話すという。
直接料理人になろうと思わずとも、料理に関わる仕事があるということを知ってもらうだけでも、子供たちの未来の可能性を広げることができる。そんな思いから、「要望があれば、養護施設の子供たちを雇用することも考えている」そうだ。