地元長野に貢献する。「アマゾン料理人」太田哲雄の次なる挑戦

太田哲雄シェフ


最後の柱がガストロノミーだ。レストランとしては、年間12日(2021年の場合)しか稼働しないという特殊な店。しかしそこですごす時間は、他のどこでも体験しえない特別なものといえる。

秋なら、山の中に入り、キノコなど「これは!」という食材を探して2日ほど山を歩き、集めた食材を1日かけて準備し、その翌日にオオタ流ガストロノミーとして供する。この活動は、料理人としての矜持であると同時に、長野県の魅力を訴求し、長野県の食材を応援するという意味合いも込められている。



「野菜は近隣の農家から、魚は川魚のみ。肉はタボス牧場(長野県上田市)の経産牛を主に使っているのですが、必ずしもそれにこだわるわけではありません。というのも、一番のものだけに固執してしまうと、二番三番が育たないからです。だからあえて、名前の出ていない普通の食材も積極的に使っていくようにしています」

いわゆる地産地消を標榜するにとどまらない、より深くその土地のことを考えた食材の利用には、なるほど、と、考えさせられるものがある。

県の可能性を開くコラボ


そして、その3本の柱に加え、来春から、もう1店舗の開業が加わる。コンセプトは「信州レストラン」。現店舗の隣の広い倉庫を現在リノベーションしている。

「軽井沢に遊びにきたら、一食くらいは、信州の郷土料理を食べてほしい、そんな思いから、信州の郷土食レストランを作ろうと思ったんですね。信州食って何? と思われるかもしれませんが、長く厳しい冬を乗り切るための“保存食”に一番の特徴があるんです。例えば、凍み大根といって、熱湯を通してから、マイナス10数℃が2週間以上続く時期に干し上げて作る加工品があるんですが、それを煮物にするととても美味しい。そんな郷土料理をベースに、今の時代の解釈を加えた料理を出す予定です。

実は、ここから1時間半ほどのところに小川村というところがありまして、そこの凍み大根がなかなか美味しい。そこで、今年の出来高分は全部、僕が買い上げることにしました。1800本ですよ! お菓子もそうですが、加工品であればこのように村全部の大根を買い取って、その村に貢献するというようなことも不可能ではありません」

このプロジェクトは、信濃毎日新聞との取り組みとなる。月1回連載をしているという縁もあり、地元の新聞社と組むことで、長野のための新しい可能性が開けるのではないかと思ったという。信濃毎日新聞としては、信州の昆虫食を正しく広めたいという思いがあり、そのためのスペースを店内に設けたり、ワークショップを行ったりということを考えているそうだ。それに対して、太田氏もメニュー提供などできることを協力するという。
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文=小松宏子

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