そこで、キヴコールド・グループは、冷蔵機能がある海上輸送用コンテナを物流の拠点にして、収穫から販売までの完全なコールドチェーンを構築しようとしている。
まず、農家が収穫した作物は、特殊な保冷箱に入れて車やバイクで新鮮なまま、コンテナに運び込まれる。次に、小売店からの注文に応じて、再び保冷箱に入れられた作物は鮮度を保ったまま店頭に到着するようにする計画だ。
海上コンテナの屋根に設置した太陽光発電パネルから冷蔵に使う電力を賄うので、無電化地域でも問題ない。
保冷箱にも電源はいらない。なぜなら、特殊な素材でつくられた保冷剤と保冷ボックスによって、一緒に入れた作物を一般的なのものより最大1.5倍の時間、保冷し続けるからだ。
この保冷箱を使う仕組みとコンテナ冷蔵庫を開発したのは、神戸に本社を置く「コールドストレージジャパン」だ。コンテナ冷蔵庫には、海上自衛隊の最新の潜水艦にも使われているスターリングエンジンという新技術を導入して、省電力での保冷を可能にした。
さらに、晴れた日中なら太陽光パネルだけで発電量は十分なのだが、夜や雨の日は、「ロケットバッテリー(大阪市)」という企業が開発した大容量のリチウムイオン電池で電力を蓄えられるようにした。サムエル氏は、次のように未来へ向けた抱負も語る。
「保冷箱にセンサーと通信装置をつければ、何をどこに運ぶのかだけでなく、適切な温度が保たれているのかを遠隔監視できます。将来は小売店が農家の収穫情報をリアルタイムに見ながらモバイルアプリで注文ができる。そういう仕組みをつくりたいです」
神戸市がルワンダ共和国と連携する理由
実は、ルワンダ共和国は神戸市と深い関係にある。2016年に久元喜造市長が同国を訪問してから、お互いにビジネス訪問団を派遣し、日本の大学生がルワンダで起業を体験する事業なども展開してきた。2019年1月、ポール・カガメ大統領が来日したときに、神戸市長と話をしたいと申し出があり、面談が実現したほどだ。
それでは、なぜ、神戸市はアフリカに注目するのであろうか。
その狙いは、はっきりしている。経済成長が著しいアフリカとの関係がいずれ役に立つと考えているのだ。2050年には世界人口の4分の1を占めことになるアフリカは、グローバル経済のなかでは大きな魅力を秘めている。ルワンダは大国とはいえないが、「ICT立国」というスローガンで世界に知られている。同国と強く繋がれば、アフリカでの揺るぎない地位を得られると考えているのだ。
そして、この神戸とルワンダとの連携から生まれた会社が前出のキヴコールド・グループだ。2019年に横浜で開かれた第7回アフリカ開発会議(TICAD Ⅶ)に、コールドストレージジャパンが神戸市の展示ブースに間借りした。そのときに来日していたルワンダICT商工会議所事務局長のアレックス・ンタレ氏がブースで声をかけてきた。
日本から来た大学生に話しかけるルワンダICT商工会議所事務局長のアレックス・ンタレ(右)
ルワンダICT商工会議所がアフリカでのコールドチェーン構築を検討していることが判ると両者はその場で意気投合。その後、トントン拍子で協議が進むうちに設立されたのがキヴコールド・グループなのだ。
来月初めての実証事業に使う海上コンテナが、ルワンダの東隣にあるタンザニアのダルエスサラーム港に到着した。
UNOPSは、この事業を他のアフリカ諸国に展開できるだろうと、各国政府にも紹介しようと考えており、欧米の投資家にもこの事業への出資を呼び掛けている。
はたして、アフリカ特有の「フードロス」という大きな難問にうまく切り込めるのか、これからも注目していきたい。
連載:地方発イノベーションの秘訣
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