洗濯機で真空調理。イスラエル発の奇想天外な「中食」アイデア

イスラエル発の洗濯機用真空調理キット「Sous La Vie」


そして建築学科の学生だったガールフレンド(現在の妻)に話したら、彼女が、「電気代を払えないホームレスの人たちでも料理ができるように、料理に必要な電力は都市の電力網から入手できるのでは」と言い出した。そして2人で「コインランドリー」に行き着いたんだ。

ネット検索をして、ホームレスの人たちがコインランドリーをサンクチュアリとしていることも知った。ここなら24時間365日オープンしているし、1人になれることも多い。


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これで「場所」は決まった。あとは方法だけれど、ここで「真空調理」と、「熱湯の中で長時間かける調理法」が結びついたんだ(注:欧米では、温水洗濯が主流)。なによりも、回っている間に破れない丈夫な袋を作る必要があったが、そこをなんとかクリアして、プロトタイプを完成させた。



──しかし、料理はまったくの専門外だったのでは?

先に話した料理ワークショップ上級コースで、熱湯中で長時間真空調理するのに適した食材や組み合わせについてアドバイスをもらえた。自宅の洗濯機でいろいろ試したりもしたしね。

──「Sous La Vie」の開発でもっとも苦労した点は?

袋内部の環境を維持するため、完全に密封する技術に苦労した。いくつもいくつも素材を変え、試作を重ねた。

──「Sous La Vie」を実際に使った経験は?

フードテックを活用したエコシステムの実現に情熱を燃やす「スウェーデン・フードテック」創始者、ヨハン・ジョーゲンセン(Johan Jorgensen)に招かれて、世界最大のフードフェスのひとつ、35万人が集まるストックホルムの「SMAKA(グッドフードフェスティバル)」に参加した。会場に洗濯機を持ち込んで1日じゅうマシンを回しながら料理をしたのは、クールな体験だったよ。

──商品名の「Sous La Vie」に込めた思いは?

商品名の「Sous La Vie」は真空調理を意味する「Sous vid」から取っている。フランス語で「それが人生だ」の意味だ。真空調理はフランスで生まれた技術だしね。ファストフード、ホームレス、資本主義の現代でこのプロダクトを発表するにあたって、一種皮肉な思いも込めたつもりだ。

──「Sous La Vie」の商品化は考えなかったか? スポンサーを探したりはした?

思いがけず世界から注目されたが、商品化は考えなかった。

「Sous La Vie」はホームレスの人たちの生活環境に合った調理キットだと思うし、コロナでますます家で食べることが多くなった今、夏の暑い中、コンロを使うのが不快なときに、洗濯ついでに料理できたら便利じゃないか、と思う気持ちには変わりはない。

でも「Sous La Vie」は、「いつもと正反対に実用的なことを」と思ったとはいえ、結局はあくまでも「アート」として完成した。僕自身の仕事は、コンセプトを開発したことと思っている。ここから誰かがヒントを得て、自分の得意分野でこのコンセプトを伸ばして行ってくれるかもしれないしね。

文=石井節子

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