一方、こうしたロボット支援手術と少し異なる手法に、腹腔鏡手術がある。腹腔鏡手術では、外科医が腹腔鏡手術用の機械を直接手に持って、操作しながら患者の手術にあたる。
どちらの手法もかなり前から存在しており、腹腔鏡手術は1990年代はじめに普及が一気に進んだ。また、ロボット支援手術も、ここ20年で広く活用されるようになった。
どちらの手法も高度な訓練を必要とし、米国では現在、ほとんどの訓練がレジデンシー(専門領域を学ぶ期間)とフェロー(レジデンシー後の臨床医学を学ぶ期間)に組み込まれている。しかし場合によっては、集中訓練を追加で受けたり、技術習熟を目的とした1年か2年のプログラムに参加したりする必要がある。
ロボット支援手術の利点は、小さな機械でできた「ロボットアーム」が、人間の手や、人間が操作する機械であれば不可能なところまで届くことだ。この利点はとりわけ、喉頭がんや舌がん、扁桃腺がんといった、頭部や頸部のがん手術で力を発揮してきた。また、切開した傷口が小さければ、速やかに回復し、術後の痛みも軽く、日常生活にも早めに復帰できる。
ただし、ロボット支援手術をめぐっては、いくつかの点が懸念されてもきた。手術が長時間化したり、従来の「開腹」手術に切り替える必要性が生じたり、術後に合併症が起きる可能性が高まったりするのではないかという懸念だ。
このほど、過去数十年で実施されたロボット支援手術に関する研究論文50本のレビュー論文が、米医学誌「Annals of Internal Medicine」2021年8月号で発表された。対象となった論文に含まれる患者数は、合計でほぼ5000人にのぼる。
このレビュー論文によれば、合併症が報告された39本の研究論文のうち、従来の開腹手術と比較して、ロボット支援手術のほうが合併症の発生率が低かったことを示した論文の数は4本(約10%)だった。とはいえ、レビューの対象となった研究論文の大半は、合併症の発生件数や手術時間、転帰の差について、手法による違いが見られないと結論づけていた。