ブロックチェーンは、ビットコインやその他の暗号通貨の基盤となる技術であり、すでに貨幣と銀行のあり方を根底からつくり替えている。金融大手の「ペイパル」や「スクエア」「JPモルガン」などがビットコインを取り扱うようになり、デジタル資産であふれかえる未来で優位に立とうとしているからだ。
同時に「ボーイング」や「サムスン」「テスラ」「ノバルティス」といった大企業も、この新しいテクノロジーを使ってサプライチェーンの改善や顧客データの共有、業務プロセスの迅速化を図っている。貸借対照表にビットコインを加えている企業さえあるのだ。昨年、S&P500銘柄のリターンは18%だったが、ビットコインのリターンは300%を超えた。
ウィンクルバイは、何もかもまだ始まったばかりだと話す。2人はこれまで、前出の暗号通貨取引所とニフティ・ゲートウェイを所有する持ち株会社「ジェミナイ・スペース・ステーション」、彼らのファミリーオフィスの「ウィンクルボス・キャピタル」を介して、25社ものスタートアップに出資してきた。
こうした企業は、ウィンクルボス兄弟等が「メタバース」と呼ぶ新たな仮想世界の基盤を築いている。そこではアートや音楽、不動産などのデジタル資産が生み出され、売買、管理され、すべてがブロックチェーンを使って行われる。ピアツーピア(P2P)ネットワーク経由で統治され、強大な企業ではなく参加者が利益を得る仕組みになっている。
「中央集権型のソーシャルネットワークの概念は、5年後や10年後にはなくなっているでしょう」
フェイスブックについて尋ねられたタイラーは、そう予測する。
貨幣こそが究極のソーシャルネットワーク
コネチカット州グリニッジで育ち、ハーバード大学の出身で、元オリンピック選手である2人はいま、反体制派テクノロジー運動の中心にいる。
フェイスブックとの調停に決着をつけ、08年の北京オリンピックに出場した後、ウィンクルボス兄弟はオックスフォード大学に進学し、10年に経営学修士号(MBA)を取得。そしてベンチャー投資を始めるためにウィンクルボス・キャピタルを設立した。だが2人は、すぐに自分たちがシリコンバレーで敬遠されていることに気づいた。巨大企業のフェイスブックと、その拡大し続けるネットワークからの報復措置を恐れたスタートアップに、次から次へと出資を拒まれたのだ。
ウィンクルボス兄弟は12年6月に休暇で訪れた地中海のリゾート、イビザ島で初めてビットコインに出会った。紹介したのは早くからビットコインを利用していたユーザーたちで、従来のテック業界ではよそ者だった人々だ。貨幣こそが究極のソーシャルネットワークであるという発想、そして中央銀行の支配を受けず、数学的な確実性に裏打ちされたビットコインの概念は、自律心に富むアスリートだった2人には魅力的に映った。
ニューヨークに戻ると、2人はフェイスブックから得た資金でビットコインを買い上げ始めた。そして13年に150万ドルを投じたビットコイン取引所の閉鎖を経験すると、この市場で成功するためには自ら事業に乗り出す必要があると判断した。何より、この混沌とした規制のない産業に秩序をもたらす必要があった。14年、2人は独自の暗号通貨取引所ジェミナイを設立した。