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2021.08.22

課題を課題化する。「〇〇問題」というネーミングの効用

イラストレーション=尾黒ケンジ

いま、私たちの身の回りにはあらゆる「問題」が転がっている。それは、人種差別問題や環境問題といった地球規模のものから、騒音問題や害虫問題など身近に起こりうるものまでさまざま。しかし、「名もなき問題」が多くの人が認知している以上に存在することに、私たちは無自覚だ。

今日から、日常生活でもやっとしたり、疑問に思ってもつい見過ごしてしまうようなことに「◯◯問題」と名前をつけてみよう。すると、具体的な人や現象が浮かんできて、問題の解決策を考えたくなってくる。そうやって小さな問題がクリアされていくと、世界はきっと面白くなるはずだ。


新緑が芽吹く5月に、足早に過ぎ去る季節を名残惜しく感じてしまうのは、私が「桜守」だからかもしれません。桜守とはその名の通り、町の桜を守り育てる人のこと。私は東京在住ではあるのですが、岐阜県郡上市八幡町の桜守見習いとして現在活動しています。

師匠は、郡上八幡で建築事務所を構える高垣さん。お酒とダジャレをこよなく愛するオッチャンですが、彼と出会って初めて桜守という存在を知りました。同時に、桜守は基本ボランティアであること、そして高垣さんはほぼひとりで活動している事実を知って衝撃を受けました。

誰もが春になると桜を楽しむくせに、その面倒を見るのは桜守ひとりだけ。この由々しき問題を「桜はみんなで楽しむものなのに問題」と名づけ、できる範囲で活動のお手伝いをしています。

課題を課題化するために


そんな私は普段何をしているのかというと、広告代理店で企業のさまざまな課題解決に取り組んでいます。近年は課題が複雑化し、「課題解決よりも課題発見が大事」といわれて久しいですよね。経済成長へと突っ走った社会が暮らしの課題をあらかた解決し、そもそも解くべき課題は何なのかから考え直しを迫られています。けれど、課題発見の具体的な仕組みは、私が知るなかにはまだ存在していませんでした。

そんなときに出合ったのが日本NPOセンター。そこには日本全国5万以上のNPOのハブとなるNPOとして、日々たくさんの課題が集まってきます。言い換えれば、経済合理性に任せていては決して解けなかった“ある人にとっては切実な課題”が数多く残されているということ。僕の出合った「桜はみんなで楽しむものなのに問題」もそのひとつ。

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高垣さんと打ち上げの席にて。お酒を愛し、お酒に愛されています。

であれば、日本NPOセンターと連携することで、日本全国から小さくても解くべき偉大な課題を集めて紹介する課題発見のシンクタンクがつくれないか。そんな発想で生まれたのが課題ラボという仕組みです。

あるテーマに沿った課題を日本全国から集め、企業の皆さまに紹介するQROSS SESSIONという取り組みがあるのですが、「子ども」がテーマの回で私が特に驚いたのは「修学旅行をきっかけに問題」。修学旅行と聞くと“学校でいちばん楽しいイベント”という印象が強かったのですが、まだセクシャリティが確立していない子どもにとって、初めての共同生活で“男女どちらのお風呂に入るか”を突きつけられるイベントでもあるという視点を得ました。この課題さえ知っていれば、お風呂の分け方や入り方ひとつで解決できる問題になるかもしれません。
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文=鈴木雄飛 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.083 2021年7月号(2021/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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