建築家・隈研吾が中華街で学んだこと


小山:隈さんは、空間が味に影響すると思いますか。

:すごくすると思います。

小山:僕は、食事の場は天井が低くあるべきだと思うんです。天井が高くて、かつ静かなレストランだと、料理のおいしさが一瞬にして蒸発してしまう気がして。

:天井が高ければ高いほど高級に感じる、という勘違いがありますからね(笑)。以前、西武鉄道の観光電車「旅するレストラン 52席の至福」の外観と内装のデザインを担当したんだけど、そのときも天井を中心にデザインしたんです。2両あるオープンダイニングの、2号車の天井は柿渋和紙、4号車の天井は西川材を使用したりして。

日本人は天井に対して無神経すぎるんですよ。照明器具や空調の吹き出し口、点検口など、「機能だから仕方がない」と思っていて、どの天井もエレガントさに欠ける。僕は世の中の点検口をすべてつくり直したいくらいです(笑)。

小山:電気のスイッチやコンセントもデザインのバリエーションがなさすぎですよね。あと、住宅においては「LDK」という言い方がよくない気がする。もっと大胆に空間をとらえて、設計やデザインしてもいいのに。例えばこれは僕の経験なんですが、リビングの20畳が22畳になっても印象はほとんど変わらないけれど、2畳のお風呂を4畳にしたら、まったく豊かさが違う。

:湯道を提唱する薫堂さんならご存じだと思いますが、ユニットバスって日本発なんですよね。1964年の東京オリンピックを控え、建設を急ぐホテルニューオータニで、内装工事を省力化するために生まれた。階下への水漏れのリスクが少なく、簡単に素早く設置できるし、実際1044室あった客室への設置工事が3カ月半で済んだんです。

素晴らしい発明ではあったけれど、その後の日本の風呂文化がまずしくなってしまったのは本当に残念。蒸し風呂、岩風呂、五右衛門風呂、鉄砲風呂など、本当に豊かな文化だったのにね。

今月の一皿


横浜・中華街「東北人家」の餃子。豚肉は十勝のどろぶたを使用。白菜の浅漬けと八角が独特の風味を醸し出す。



blank


都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。




小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

隈 研吾◎1954年、神奈川県生まれ。90年、隈研吾建築都市設計事務所設立。現在、東京大学特別教授・名誉教授。国内外で多数のプロジェクトが進行中。国立競技場の設計にも携わった。主な著書に『点・線・面』『ひとの住処』『負ける建築』など多数。

写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN No.083 2021年7月号(2021/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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