権力は腐敗する、タリバンは北朝鮮になるのか

タリバンのザビフラ・ムジャヒド幹部(Photo by Sayed Khodaiberdi Sadat/Anadolu Agency via Getty Images)


これに対し、タリバンは質素というか、シンプルな生活ぶりが目立ったという。あるとき、ある外交団がカブールで、タリバンを脱退したばかりの人物と接触した。もうタリバンと関係がないというのに、この人物は外交団が準備した豪華な食事にはほとんど口をつけなかった。関係筋は「魚介類やデザートには全く見向きもしなかった。焼いた羊の肉を少し食べただけ。食事に全く関心がないようだった」と語る。

もちろん、西洋文化へのあこがれなどあろうはずがない。この人物は携帯電話を持っていなかった。位置を追跡されるのを恐れていたのではなく、「西洋文化の影響を受けたくない」と語ったという。外交筋の1人は「タリバンの生き様はシンプルで、一般市民により近い存在と言えるのではないか」と語る。

頑ななまでに西洋文化を嫌い、厳格なコーランの世界を追及してきたタリバンだが、国家を運営するとなれば、果たしてどうなるだろうか。国家を建設するにあたり、様々なインフラを整備する必要がある。アフガニスタンにはめぼしい産業がない。外国の支援や投資は喉から手が出るくらい欲しいだろう。

別の外交筋は「タリバンは外交には関心がないが、資金には大いに関心がある」と語る。タリバンは18日現在、女性の人権をある程度認め、政治的な復讐も行わないと主張している。これには、国際社会から支援を引き出す狙いも当然、含まれているだろう。タリバンが扱う金額は、過去とは桁違いの額になっていくはずだ。

権力は腐敗する。19世紀の英国の歴史・思想家、ジョン・アクトンの言葉だ。1945年、ソ連の庇護の下に権力を握った北朝鮮の金日成主席は、「地上の楽園」を掲げ、万民が幸せな生活を送る国を目指した。それから70余年、北朝鮮の現状は「賄賂がなければ、一歩も前に進めない世界」(脱北者)にまで堕落した。

タリバンは「自分たちが目指す世界を国外に広げる考えはない」とも主張している。案外、鎖国してでも、厳格なコーランの世界の実現を目指すのかもしれない。まだ、その先がどうなるのかは、誰にもわからない。

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文=牧野愛博

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