アメリカが洋上風力発電に遅れる致命的問題点

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風力発電のタービンは大型化への流れが強まっている。面積の大きいほうが風をつかまえやすく、しかも高いところほど風が強く吹くからだ。世界で稼働している最も大きなタービンは米ゼネラル・エレクトリック(GE)製の「Haliade-X」で、基礎部分から「ブレード」と呼ばれる羽根の最上部までは260メートル。東京・虎ノ門にある「虎ノ門ヒルズ」にほぼ匹敵する高さだ。ブレードの長さは107メートルに達する。

つまり、陸上の100メートル競走のコースがすっぽりと収まるような船でなければ、巨大なタービン建設に使われる部材を運搬することは難しい。しかも、部材の総重量は1000トンを超える。その重さに耐えうるクレーンも不可欠だ。

しかし、米国のメディアによれば現在、同国に1000トンの部材を吊り上げられるようなクレーンを備えた大型作業船は存在しない。一方、世界の洋上風力発電市場を牽引する欧州では大型船を活用したタービンの設置が進む。

「最大のタービンの部材を搬送できる大型船は世界で8隻しかない」(ギリシャの海運関連のニュースサイト)。米国に対応できる船がなければ「欧州船籍の作業船などを借りればいい」と考えがちだが、ジョーンズ法がネックになる。

前出の米国初の商業用洋上風力発電タービン設置をめぐっては、苦肉の策が用いられたという。米国内の港を出た船が部材を建設場所まで搬送。待ち構えていた外国籍の作業船が部材をクレーンで吊り上げ、タービンを建設した。

バイデン政権は洋上風力発電に傾注し、2030年までに30ギガワットまで発電能力拡大を目指す。1000万世帯以上の年間の電力需要を賄える計算だ。東海岸の州中心に導入へ意欲的な目標を掲げる。一方で、同大統領は雇用を確保しようと、「メイド・イン・アメリカ」も推進。ジョーンズ法支持の立場だ。となれば、法改正を通じた規制緩和は考え難い。

このため、米国では自国内で大型作業船を建設する動きが進んでいる。バージニア州リッチモンドに本社を構えるドミニオン・エナジー社は造船会社などとのコンソーシアムで、出力が12メガワット以上のタービンの建設に対応した設置船の建造に取り組む。「ピーク時には1000人の労働者がプロジェクトに従事する」(ドミニオン社)。

ただ、こうした雇用を確保しようという施策はコスト高となって、米国の洋上風力発電導入に向けた野心的なシナリオに狂いを生じさせるリスクをはらんでいるようにも思える。

連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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文=松崎泰弘

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