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2021.09.03

世界は「AI経営」へとシフトする。いま、求められる未来をつくる人材とは

左:染谷隆夫 東京大学大学院工学系研究科長・工学部長 右:桂 憲司 PwCコンサルティング 常務執行役 パートナー

プロフェッショナルファーム、PwC Japanグループと日本の最高学府ともいうべき東京大学(以下、東大)が提携、日本が世界で戦えるための経営人材の育成を目的に始めた「AI経営寄附講座」。共同研究等ではなく、教育プログラムの提供という、この画期的なプロジェクトの立役者が、東京大学大学院工学系研究科長・工学部長の染谷隆夫と、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)常務執行役 パートナーの桂憲司だ。

1回目のセッション(2021年6月7日開催)を終えた2人に、本講座に込めた意図や今後の産学共同のあり方について率直に語ってもらった。


染谷隆夫(以下、染谷):新型コロナウイルス感染症の拡大によって私たちの暮らしは大きく様変わりしました。以前から必要性を指摘されながら先延ばしにしてきた多方面のデジタル化も、今回のコロナ禍で加速した印象です。いまは誰もがITを利用せざるをえない状況で、このスピードは今後さらに速まるでしょう。ただ、その半面、対面のよさなど、あらためてリアルの価値にも気づくきっかけになりました。

桂憲司(以下、桂):確かに、コロナ禍では何が大切か、どうするべきか、課題が明確になり、また同時にさまざまな可能性も見つかったと思います。個人の能力がシビアに問われる一方で、人やモノとのつながり、ネットワークの大切さを実感しました。

例えば海外のスタッフとチャットでスケジュールを確認して、空いていればすぐにオンラインミーティングを始めるなど、いまでは日常的。デジタルを介し、あらゆるものとつながりやすくなりました。

今後は、リアルとバーチャル、サイバーとフィジカルを高度に融合したベストミックスがビジネスの鍵。デジタルトランスフォーメーション(DX)でもデータを活用したバリューチェーンの再構築など、つながりがキーワードになるのではないでしょうか。

日本の巻き返しは可能か


染谷:
DXを取り込んだ産業構造のデジタル化の流れは必然ですね。現段階では日本は欧米に比べ、DXで後れを取っているかもしれませんが、私はこれからが日本にとってチャンスだととらえています。

日本の産業界はモノづくりの成功体験が大きく、どうしても情報の重要性が相対的に過小評価されてきました。しかし最近は情報関連の講座に興味をもつ学生も多く、次代を担う彼らが育ってくれれば、日本はモノづくりというリアルな片軸は強いわけで、まだまだ勝負に出られます。しかも職人芸的な製造業など、いままでデジタルがあまり活用されてなかった産業領域こそ、デジタル化の重要性に気づいた後の伸び代は大きいですから。


染谷工学部長は、「AI経営寄附講座を開設するにあたり重要視したのは、実践力の強化。現在は、基礎力と実践力の両方を大学で鍛えることが求められている」と講座の意義について説明

桂:データを生かしてDXを進める場合、特に若いデジタルネイティブの活躍の場を設けることは大事ですね。日本のDXを担う人材を輩出するには、やはり教育が最重要事項です。

そういった大きな流れのなかで、今回、PwC Japanグループが東大と提携し、着手したのが「AI経営寄附講座」。DXのなかでもAIの活用にフォーカスしたものですが、染谷先生は本講座を、どのようにとらえていらっしゃいますか。

染谷:AI経営とはもちろん、経営をAIに任せるのではなく、AIで新しく生まれる革新的な技術について正しく現状を認識し、経営判断にうまく利用していくことと考えています。AIにも音声認識・画像認識のようにすでに活用が進んでいるものと、そうでない領域がある。それを踏まえ、次にどの領域の進化が速いか、タイミングを的確に判断し、経営に取り込めるかがAI経営の肝といってもいいでしょう。

ところが、AIなど情報技術の進化はスピードが速く、かつほかのものと融合した際の変化の力が想像を超えるほど大きい。しばしば専門家でさえ見誤るほどです。そんななかで、得られた情報をどうすれば経営サイドが適切な判断に結びつけられるのか。簡単な話ではないですが、経営者を補佐し、会社の変革をリードする新たな人材の育成が急務。それが今回の「AI経営寄附講座」で求められている大きな目標だと思っています。

桂:確かに不確実性の高い環境において、経営では迅速な判断が最重要です。そのためには、工学的な深い知識・スキルとともに、ビジネス自体もきちんと理解していなければいけません。あるいはデータサイエンティストのような分析力も問われるでしょう。

つまりAIが経営に浸透する世界では、全方向にアンテナを立てられる総合人材を養っていく必要がある。それもこの講座のポイントだろうと考えます。
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text by Fumihiro Tomonaga | photographs by Shuji Goto | edit by Akio Takashiro

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