この現象は、数年前からの逮捕現場での人種問題をもとに、今回のジョージ・フロイドさんの事件で燃え上がった一般市民による広範な警察不信。そして納税意識の高いアメリカであればこそ、それは各地方行政での予算配分に目が向き、警察組織への予算削減要求運動にも直結している。こんな警察になんか予算はやるな、というメッセージだ。
昨年から6割減った新人警察官の採用
全米経済研究所(National Bureau of Economic Research)のリサーチによれば、全国242の都市を38年間にわたって分析したところ、現在、殺人事件を1つ減らすには10人から17人の警官を増員しなければならないという結果が出ている。金額で考えると、1億6000万円から2億7000万円の「コスト」が必要となる勘定だ。
安全にはこれほどお金がかかるわけだが、前述の予算削減要求キャンペーンなどは、警官のなり手そのものの就職意欲をも阻害している。
筆者の住むラスベガスでは、2019年とジョージ・フロイドさんの事件があった2020年を比べると、応募者数の激減もあり、新人警官の採用人数が237人から101人へと約6割も減っている。
警察組織のトップは、明らかにこのジョージ・フロイドさんの事件が関係しているとしながらも、この流れは人種問題の高まりを背景に実は2017年から始まっており、ラスベガスでの採用人数はその頃に比べて、なんと5分の1となっているという。
この新人警察官の採用がままならないという問題は、他の現象にも波及しており、近年は警官の不祥事や違法行為に対するお目こぼしが目立っている。これは見方によっては、新たに警官が雇えないから、不良警官をクビにできないという事情があると察することもできる。
ラスベガスの地元紙であるリビュー・ジャーナル紙によると、警官の不法や行き過ぎ行為を指摘する市民からの苦情は、ラスベガスだけで年間2000件から2500件にのぼるという。
これは地元の警察組織が3300人の規模であることを考えると、相当な数字だ。実は市民からの苦情のうち、その約5%の100件前後しか注意処分を受けておらず、実際に解雇となるのはそのまた1割だという。
それでも、不安な世相のなかで市民の安全を守ってくれている多くの警官に対して、一般の市民は敬意を払い、予算削減要求運動のようなものは一時的であまり長続きはしない。