ビジネス

2021.09.01

戦争論もドラッカーも古くない。デジタル時代こそ古典ビジネス論へ

photo by iStock/Patrick Chu

・財の同質性

市場で売買される財に差は存在しないという仮定

・完全情報

消費者と生産者の間で財に対する情報に「差」は存在しないという仮定

・完全取引

取引によって生じるコストに差はないとする仮定

・参入と退出の自由

需要者、供給者が、市場に「参入」「退出」するのも自由とする仮定

・需要者・供給者の多様性

需要者・供給者ともに十分に存在し、独占による価格支配力がないとする仮定

しかしこれはあくまでもモデル・概念、仮定の姿であり、経営戦略論が勃興した1960年代は完全競争のような市場は顕現しておらず、筆者がコンサルタントの駆け出しだった時期でさえコンサルティングファーム内で「市場は理論通りには動かない」という議論がありました。

ところがデジタル化の進展にともない、この完全競争が市場の中で実装されつつあり、特に財の同質性、完全情報、完全取引の3要素は精度高く実現されています。ECサイトでの買い物を例に取ると、どのECサイトでも商品の価格、情報、取引の手続きがほとんど同じであることがわかっていただけると思います。

つまりデジタル化の進展により市場がより完全競争に近づき、それにより、完全競争をある程度前提にしていた経営戦略論の精度が上がり、デジタル市場の最前線で戦っているテックジャイアントの中で、深く活用されるようになったわけです。

具体例を示してイメージを深めたいと思います。米国のオンライン配信市場におけるプレーヤーの動向を分析すると、彼らが古典的な戦略フレームであるプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)を適切に活用していることがわかります。

PPMは日本企業において、複数事業を持つコングロマリット企業が各事業を静的に評価するために活用されることが多く、不確実で変化の速い現代では活用の余地が限定的であるともいわれていました。

しかしPPMがつくられた目的は、伸びしろのある成長市場でシェアを伸ばすこと、そして追加投資が少なくてすむ成熟市場で高いシェアを維持することにあり、市場成長スピードの鈍化に応じて高シェアを維持することで事業の収益性を高めるという動的な事業管理に適しています。

米国オンライン配信市場での戦い方


PPMを整理した図
出典:アクセンチュア

米国オンライン配信市場では、市場黎明期にシェアを拡大し市場の成熟に合わせて勝ち切ったNetflixに対して、市場成長期にシェアを取り切れなかった通信キャリア系のプレーヤーや、youtubeはライブ配信という新興市場に転換し、その市場成長性を活用してシェア拡大を狙いました。各社の動向から、PPMを活用した戦略が策定されていることが明らかに読み取れます。

その他にも、テックジャイアントの経営幹部が口にする戦略フレームとして、勝者による市場独占を指す「Winner takes all(ウイナー・テイクス・オール)」、時間こそが競争力の源泉であるとする「Time based competition(タイムベースド・コンペティション)」、累積生産量が増えるに従い単位コストが減少するという経験則を数理的に解き明かし曲線で示す「Experience Curve(エクスペリアンス・カーブ)」などがあります。

いずれも、いまから半世紀以上前に提唱された概念です。

現在の実ビジネスに適用しようと思えば、指標の選び方や捉え方の面などで細かな工夫が必要になります。しかし、時代の変化にも耐える揺るぎない堅牢性と普遍性を持つため、デジタルビジネスの最前線で活用されています。だからこそ、いまを生きるビジネスパーソンのみなさんに学んでいただきたいのです。

では実際にどうやって学ぶべきなのでしょうか。大学院でMBAを修めずとも、経営戦略論を自らの武器とする方法はあります。
次ページ > 敷居が低く効果てきめんな方法をご紹介しましょう。

文=中村健太郎(アクセンチュア)

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