ビジネス

2021.09.02

ビジョナル南社長がマネフォ創業時に「起業はやめておけ」と言った理由

『失敗を語ろう。「わからないことだらけ」を突き進んだ僕らが学んだこと』(日経BP刊)、『突き抜けるまで問い続けろ──巨大スタートアップ「ビジョナル」挫折と奮闘、成長の軌跡』(ダイヤモンド社刊)


南:働き方の多様化に伴い、自分自身が見つけた正解が本当の意味での正解になっていくのではないでしょうか。働くうえでの価値観を自身で見つけられるか、また時代に合わせて自ら変化させられるかどうか。多様な選択肢があることは素晴らしいと思う一方、一人ひとりが自らのキャリアを主体的に考え、コミットしなくてはならない厳しい時代の到来でもあります。

例えばスタートアップで働くことを選ぶ場合は相当覚悟がいりますよね。だって、ルールがなかったり前例がなかったり前提が整っていなかったり。マネックスの松本さんの「スタートアップは失敗する確率が高い」という言葉は、本当にその通りです(前編に掲載)。

ただトレードオフももちろんあります。一ビジネスパーソンとして成長したいのならば、成長している事業環境で、成長をもたらしている上司のもとで働くことが、成功の近道だと思います。本質的な価値を見極め、アウトプットにコミットできる覚悟があれば、僕はスタートアップで働くことも、一つの選択肢としてオススメします。

辻:実は、僕たちもマネーフォワードを起業する前に、南さんに起業の相談に行って「やめとけ」と言われたことがあったんですよね(笑)。僕は当時アメリカにいたので、後の共同創業者になる瀧 俊雄が1人で行ったんですけど、南さんの言葉に瀧はけっこうへこんで帰ってきたのを覚えています。 

南:そんなこともありましたね。先ほども申し上げたように、よほど覚悟がない限り、起業なんて、確率論的にやめておいた方がいいんですよ(笑)。でも、逆説的だけど、それでもスタートしなければ、誰も成功はしません。

決して、瀧さんに意地悪を言ったわけではないですよ。当時、自分が唯一できると思ったことは「頑張れ!」と他人のように応援することではなくて、二人に「覚悟を問うこと」だけだと思ったから、あえて厳しい反応をしました。だって、MBAをわざわざ取りにいって起業しなくても、他にも十分良い選択肢があるわけで、あのくらいの言葉を跳ね返して始めないと、いくらでもイージーな逃げ道はありますので。

瀧さんに何を言ったのか、具体的には覚えていないんですけど(笑)、僕の性格上、相当厳しく問い詰めたと思うんです。でも、その問いを乗り越えてでも二人はやり切る覚悟があった。本当に素晴らしいです。やっぱり、起業で1番難しいのは、この最初の「動き出し」に尽きると思うので、マネーフォワードの歴史に少しでも登場できて光栄です。

起業家同士による、壮大な「タスキ・リレー」


南:辻さん以外にも、メルカリの山田さん、Sansanの寺田さん、ラクスルの松本さん、ユーザベースの梅田さんなど、みんなとは仲が良いですよね。みんな似た時期に起業した、同世代の経営者なので、僕は勝手にみんなを同志だと思っています。

さっき辻さんが言ったように、僕らの世代のスタートアップは、社会の課題を解決して、世の中をよりよくしようという点で認識が一致しています。だから、同じ茨の道を歩む者同士、無意識のうちに尊敬しあい、鼓舞しあっている面がありますね。ビジョナルは最近上場しましたが、その過程で、みなさんには本当に、親身になってアドバイスいただきました。惜しみなく経験やノウハウを共有してくれるところに、改めて強い絆を感じました。
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文=蛯谷敏

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