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辻:それでいうと、僕が強く印象に残っているのは、起業前のマネックス時代にお世話になった、現マネックスグループCEOの松本大さんの言葉ですね。書籍でも書きましたが、松本さんに起業について相談に行ったら、「失敗する可能性の方が高いけど、人生は続くから信頼だけは裏切るな」という言葉をいただいたんです。

信頼をきちんと担保していれば、会社がうまくいかなくなっても次のチャンスはある。だけど、信頼を裏切ったらチャンスは二度とこない。信頼は日々の行動の積み重ねなので、すぐに構築できないじゃないですか。だから、「とにかく信頼だけはどんなきつい状況になっても裏切るな」と言われたことは覚えていますね。

「どの時代のソニーで働きたかった?」


辻:今、言葉の大切さを話していて思い出したのは、新卒で入ったソニーです。「自由闊達にして愉快なる理想工場」が有名ですけれど、自由を愛し、物づくりを愛するソニーのカルチャーは強烈でした。とにかく自由で面白かったですよ。楽しさを純粋に追求する。ユニークな人が本当に多かった。

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ソニーの東京本社(Getty Images)

南:実は僕も、憧れの会社の1社がソニーなんですよ。2018年に閉館するまでは、弊社の新入社員研修の一環で、品川にあったソニー歴史資料館に行っていました。スタートアップは歴史がないので、会社の歴史とは何かを学ぶことが大切だと思って、僕から人事にお願いして研修に組み込まれました。

そこには、約70年にわたるソニーの歴史が様々な形で展示されていました。同行した際には、歴史年表や写真を見ながら、新入社員にどの時代のソニーで働きたかったかを聞いてみるんです。創業期の写真にはみんなが工場の前で、油まみれの作業着を着て「行くぞ!」みたいに気合を入れている姿がありました。30〜40年目になると、テレビやウォークマンを中心に、イノベーティブな家電製品で世界を席巻している。そして、最近はゲーム、映画、金融サービス等が、収益を引っ張っている。一つの会社で事業がここまで多様化していても、全部が「ソニー」なんですよね。

そうした歴史を見ながら、社員には「我々がこの先どうなっていきたいのか」を考える機会にすると同時に「我々が、今どこにいるのか」を正しく認識してもらうことが大事だと思っています。今の地道な課題解決の積み重ねが会社の歴史になっていくこと。また、みんながなぜこの会社に選んだのかを入社直後に改めて考えてもらうことが、当時、創業者の大切な役割と責任だと感じていました。

辻:会社を歴史ととらえると、成長の段階がありますよね。そして、そのフェーズごとに、社員に求めていくことも変わっていきますね。

例えば僕らの会社のバリューも、「User Focus」「Technology Driven」「Fairness」の3つを大事にしているんですけど、「Challenge」は入れていません。我々はスタートアップだし、挑戦することは当たり前だから。けれど、もし成長して規模が大きくなったら、やっぱり組み込まないといけないかもしれない。

おそらく、ソニーもそうした経験を経て今があると思いますが、会社の成長フェーズが変わると、必要とする言葉も変わっていくのだと感じています。

ソニーで言う「愉快なる理想工場」みたいに「その会社で働く人が自然と身にまとうべき価値観を決める」こと、そして社員に浸透させていくことが、組織が成長し続けるためには不可欠なんでしょうね。

文=蛯谷敏

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