生後約2カ月というのは、動物の発育にとって重要な時期にあたる。犬や猫の離乳は、生後3週間頃からと早い時期に始まるが、人間と同じく母乳と合わせ、生後8週間頃までかけて、徐々に切り替えを進める。またこの期間は、親や兄弟たちとの間で社会性を身に付ける機会(社会化期)としても重要な時期とされる。
この時期を親や兄弟とじっくり過ごせたか否かは、心身の健全な発育とともに、将来飼い主の手元にやってきてからの、基本的な性格を決めるうえでも重要だ。
ところが、日本では「小さい=可愛い」ということで、この時期の子犬や子猫の人気が根強く続いている。このことが、早期の親離れと販売に拍車をかけてきた。また同じ理由から、体格の小さい個体を増やすため、身体の小さな親を掛け合わせ続けるという無理な繁殖も横行するようになった。
ペット市場のニーズに合わせ、このような繁殖と販売が行われていたという点では、購入者の責任も大きいわけだが、ともあれ、今回の改正によって、8週齢以下の売買は禁止されることとなった。
もちろん、法による制限以前から、動物の性質に配慮し、適正な繁殖、販売を続けている繁殖者、業者も存在する。また、小さな個体をレスキューする目的で購入するという飼い主もいるということも理解して欲しい。
また今回の改正では、2022年6月から、生後90日を超える犬と猫に対して、マイクロチップ装着(皮下に注入)の義務化も示された。販売業者に対しては「義務」、一般の飼い主には「努力義務」として提示されている。
マイクロチップ登録申請書とリーダーの一例(筆者撮影)
マイクロチップは、直径約2ミリメートル、長さ約8~12ミリメートルの円筒形の電子標識器具で、装着後は、専用のリーダーを皮膚の上からかざすと、15桁の個体識別番号を読み取ることができる。読み取った番号には、個体と飼い主の情報が紐づいている。
犬の場合は、保健所で配布される登録鑑札もあるが、これが首輪などに取り付ける必要があるのに対し、マイクロチップは体内に装着されるものであるため、迷子になった場合の返還率も格段に上がる。災害発生時などにも有効性が発揮されると期待されている。
また、飼い主を明示するという意味で、飼い主の責任もより強固にするものと言えるだろう。
今後、犬と猫を迎えようと考える人たちには、ぜひ、購入時の月齢とマイクロチップ装着の有無を確認、検討してもらいたいと思う。
その他、今回の法改正では、動物の殺傷に関する罰則についても引き上げがなされ、繁殖制限を義務化する等、適正飼養のための規制についても強化が図られた。
コロナ禍のなかで、「人と動物の共生」という課題も見え隠れする。在宅時間をペットとともに過ごすことで、より充実させようとする人も少なからず増えているが、一方で、一時的な興味や勢いから購入した動物が、イメージや期待と違ったという理由から、放棄される例も増加しているという。
経済的に発展を遂げた社会では、ペットをはじめとする動物など、人間以外の生きものへの愛護や福祉が醸成していく傾向にあると聞く。果たしてこの状況は、わが国でどこまで深化しているのだろう。コロナ禍は、それを問う機会でもあると言えるのではないか。
*天然記念物に該当する日本犬(柴犬や秋田犬等)は、特例として、49日(7週齢)以上で販売が可能
連載:獣医師が考える「人間と動物のつながり」
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