ハンガリーのブランドに学ぶ、異文化を正しく「適用」する方法

ブダペストにあるナヌーシュカ本店(Nanushka)


ワイルド氏に、「異文化要素の適用のセンスが良い企業」はどこかと聞くと、ハンガリー・ブダペストに本社を置く「ナヌーシュカ(Nanushka)」を挙げてくれました。

サイトをみて瞬間的に「これだ!」と思いました。コレクションのモデルに多様な人種を選択しているのですが、「西洋白人中心のイメージを消すために違った人たちを入れました」というポリティカル・コレクトネス感が漂っていないのです。早速、同社にインタビューを直接申し込みました。


(c) Nanushka

「歴史」よりも「未来」を見る


ナヌーシュカは、デザイナーのサンドラ・サンダー氏が2006年に創業。ブダペストに本店を構え、ニューヨークとロンドンにも出店。生産の7割は、ハンガリー国内でカバーしています。

ブランドの特徴についてサンダー氏に聞くと、「ハンガリー独自のローカル文化に加え、東西文化の交差点としてオーストリア、トルコ、ロシアなど周辺文化の影響を強く受けてきました。私自身もそうしたミックスした文化のなかで育ってきたので、それが私の表現の源になるわね」と言います。

コンセプトは、「ボヘミアン・モダニスト」。ボヘミアンとは、中東欧に居住する移動型民族のことで、実際、ハンガリーにいるロマ族(ジプシー)とのプロジェクトも同社のサステナブル報告書に記載されています。

ナヌーシュカの会長であり、サンダー氏の夫でもあるピーター・バルダスティ氏は、次のように説明を加えます。「ハンガリーのボヘミアン文化にある自由を愛しています。同時に、サステナブルや社会的責任が新しいラグジュアリーの軸としてあるべきで、それをモダンと形容しています。ハンガリーやラグジュアリーの旧ルールに従う必要はないということですね」


サンドラ・サンダー氏(左)とピーター・バルダスティ氏(右) (c) Nanushka

しかし、このように文化を重視するわりに、ナヌーシュカのサイトでは「伝統」「文化遺産」「歴史」という言葉があまり目立っていません。使っていないわけではないですが、それらの言葉を意識的に中和しようとしているとの印象を受け、質問しました。

「ありがたい指摘です。クラフツマンによって作られたものなど良いものもありますが、あまり後ろを振り返りたくないのです。というのも、およそ30年前まで共産主義国だったので、一番古い私企業でも創業30年です。それ以上に歴史を辿ろうにも解釈が容易ではありません。ですから前を向いていきたいのです」(バルダスティ氏)
次ページ > なぜ、文化感度が高いのか?

文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

タグ:

連載

ポストラグジュアリー -360度の風景-

ForbesBrandVoice

人気記事