書店がフレグランスを発売 「香りコンテンツ」はマーケティングに活用できるのか?

パウエルズ・シティー・オブ・ブックスの店内=2014年


5人に1人が「ガソリンのにおいが恋しい」


一方、自動車メーカーのフォードは、ガソリンの香りを再現した香水を発表した。電気自動車「Mustang Mach-E GT」のプロモーションのために開発したものだという。

ムスタング
フォードの電気自動車 「Mustang Mach-E GT」(GettyImages)

フォードが実施した調査によると、ドライバーの5人に1人が、ガソリン車から電気自動車に乗り換えたときに最も恋しくなるのは「ガソリンのにおい」と回答したという。また、同調査によると、ガソリンの香り(「におい」ではなくあえて「香り」とする)は、ワインやチーズよりも人気が高いということも判明した。

「ガソリンの香り」が好きな人は、我々が想像している以上に多いようだ。「香り」が障壁となって、電気自動車への乗り換えを躊躇している人がどれだけいるかは未知数だが、「香り」を重要なコンテンツと捉えるアプローチが興味深い。

フォードの発表によると、香水の開発は、フレグランス・コンサルタント会社「オルフィクション」が担当した。市販はされないというが、フォードの顧客に寄り添った姿勢が伝わってくる。

香りが記憶を呼び起こす


筆者が専門とするコンテンツマーケティング業界において、コンテンツの形態はよく議論のテーマとなる。これまではテキストや動画が主流だったが、コロナ下ではポッドキャストを中心とする音声コンテンツも注目を集めるようになった。

「体験」の重要性についても、マーケティング界隈でよく語られる。リアル店舗やイベントで五感を刺激するアプローチだ。しかしながら、移動が制限される状況においては、いかにオンライン、もしくは遠隔で五感を刺激するかがポイントとなる。

動画コンテンツが視覚、音声コンテンツが聴覚なら、「香りコンテンツ」は嗅覚を刺激する。そして、嗅覚は記憶と結びつきやすい。香りやにおいが記憶を呼び起こす現象は「プルースト効果」と呼ばれる。

バンドン
インドネシア・バンドンの美術館に併設されたカフェ。コーヒーの香りが漂う店内には現代アートが飾られていた

例えば筆者の場合、インド料理店の前を通ると、バックパッカー時代の記憶が呼び起こされる。コーヒー豆を焙煎する香りが漂ってくれば、コーヒー文化が根付くインドネシア・バンドンのカフェを巡った記憶がよみがえる。

まだまだ社会の正常化まで時間がかかりそうないま、「香りコンテンツ」を研究する余地は大いにあると感じる。


連載:世界を歩いて見つけたマーケティングのヒント
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文・写真=田中森士

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