経済・社会

2021.08.16 16:00

ミャンマーの民衆が口ずさむ韓国の「第2愛国歌」

ミャンマークーデターに反対するデモ(ミャンマー・ヤンゴン、7月14日)(Photo by Yan Naing Aung/Anadolu Agency via Getty Images)

ミャンマークーデターに反対するデモ(ミャンマー・ヤンゴン、7月14日)(Photo by Yan Naing Aung/Anadolu Agency via Getty Images)

米国務省のシャーマン副長官が7月下旬、日中韓などアジア諸国を歴訪した。バイデン政権で国務省高官が中国を訪れたのは初めて。中国は、シャーマン氏が外遊に出発した後になって、ようやく訪問受け入れを伝えたほか、26日に行われた王毅国務委員兼外相や謝鋒外務次官との会談では原則論の応酬になったという。それでも、米中外交チャンネルの構築を目指した当初の目的は達成したようだ。

厳しい外遊だったが、シャーマン氏がほほえむ場面もあった。米韓関係筋によれば、シャーマン氏は、韓国外交省の崔鍾建第1次官が紹介したエピソードに強い関心を示したという。崔氏が紹介したのは、ミャンマーで2月に起きたクーデターに抵抗する市民たちが、「あなたのための行進曲」(임을 위한 행진곡)を口ずさんでいるという話だった。「あなたのための行進曲」は、韓国軍が1980年に多数の市民を殺害した光州事件の犠牲者らを追悼するためにつくられた。以来、韓国で行われる事件の追悼式典のほか、デモや市民集会などでも幅広く歌われている。私もソウル勤務時代、時の政権を批判するロウソク集会が開かれるたびに、この曲を耳にした。

韓国政府関係者はこの曲について「民主主義の象徴。第2愛国歌(エグッカ、国歌)だ」と説明するほどだ。関係者は「軍事政権への抵抗という意味で、ミャンマーの人々は光州事件の市民と自分たちをオーバーラップさせているのではないか」と語る。文在寅政権には1980年代の民主化運動に参加した人々が多数いる。光州事件の真相についての見直しも進めてきた。文在寅大統領も2017年5月18日、就任直後に行われた光州事件追悼式典に出席し、他の参加者と手をつないでこの曲を歌った。ミャンマーの人々も歌っていると聞いて、気分が悪いはずがない。

そして、確かに韓国政府はミャンマークーデターを厳しく非難してきた。崔次官は3月、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の駐韓国大使らとの懇談会で、ミャンマー軍や警察当局による市民への暴力行為の中断を求め、民主主義を求めるミャンマー市民を支持する考えを示した。韓国政府関係者の1人は「ミャンマーの人権問題では、韓国は日本よりもミャンマー軍に厳しい態度で臨んでいる」と説明する。

日本外務省も3月、ミャンマー市民が多数殺傷された状況を「強く非難する」とした外相談話を発表。茂木敏充外相が8月6日、ミャンマーなど地域諸国とのオンライン会議で、ミャンマー側に事態収拾に向けた努力を呼びかけた。ただ、この会議ではミャンマー軍が任命した閣僚の参加を認めたほか、ミャンマーに対する政府開発援助(ODA)の全面禁止にも踏み切っていない。政府関係者の1人は「政府内に、あまり追い詰めると、ミャンマー軍を中国側に追いやる結果になるという声があるのは事実だ」と語る。
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文=牧野愛博

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