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フォーブス ジャパン編集部のキュレーター兼編集者


シリコンバレーについて研究している専門家はたくさんいる。そして何よりも「日本でも、IT企業の場合はベンチャー投資(VC)や人材といったエコシステムがすでに確立されており、起業するうえでサポートを得やすい。その点、生命科学やハードサイエンスのベンチャー企業は大学からなかなか生み出せない。もっと仕組みの検証が必要で、それを学ぶために、バイオテック産業の集積するサンディエゴはそういった知見を得られる」と、考えたからだ。シリコンバレーとサンディエゴの二つの地域を知っていることの強みもある。

理系人材が起業することの明確なメリットとして、医薬品や人工肉、といった実用性の高い製品やサービスを生み出すことが挙げられるが、もう一つ興味深い点を牧は挙げる。それは「失敗に対するマネジメント能力の高さ」である。理系学生であれば、その多くが仮説を立てて実験を通じて証明するプロセスを経験してきたはずだ。その過程で、仮説が崩れることは少なくない。牧は、理系学生の傾向として誤りや“失敗”に一喜一憂せず、試行錯誤を重ねられる点を高く評価し、「理系研究者は起業家に向いている」と語る。しかも、それが将来的には「経営」にも好影響を与える可能性がある、という。

「博士号取得者は研究の過程で仮説が崩れる経験をしているため、『失敗のマネジメント』に慣れています。そうした訓練を受けた人が経営チームにいると、リスクを許容する企業文化が形成されます。単にサイエンスへの深い理解があるだけではなく、イノベーションを起こす、思考とプロセスのレベルが高いから起業家に向いているのです」

また医師や博士号取得者は高度の資格と専門性をもつため、ビジネス経験を積んでいれば企業からの人気が高く、「(起業で失敗することがあっても)食いっぱぐれるリスクが比較的少ない」とも、牧は指摘する。これに、前出のカンバースがもう一つ視点を付け加える。

「(合成生物学をはじめとしたサイエンス領域の)起業家たちは博士課程に在籍していたため、概して年齢が高めです。社会的な立場からくる責任感、生物学という生命倫理とかかわる領域で生きてきたことから、一般的な起業家たちとは社会に対する視点がそもそも違う。それが社会課題の解決という強い意識につながっているのです」


早稲田大学ビジネススクールの牧兼充准教授。

領域の性質からも、今まで以上にアカデミアや規制当局との関係が深まり、活発になるだろう。シリコンバレーや深圳、ベルリンなど、特定の地域に偏りがちな起業シーンも世界各国へ広がるはずだ。理系・文系という、C・P・スノーが呼ぶところの「二つの文化」に分かれ、不幸な隔たりができてしまった現在の教育のあり方にも影響することだって考えられる。

文=井関庸介 写真=ラミン・ラヒミアン(ZBiotics)/ 能仁広之(WBS牧兼充)

バイオテック起業家

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