ビジネス

2021.08.13

スノーフレークが「IPO請負人」に会社の命運を託した理由


資金調達が必要な状況に不安を感じた前出のシュパイザーは、以前から面識のあったスルートマンに連絡をとった。サービスナウを17年までに時価総額140億ドルに育て上げたスルートマンは、その頃、会社の業務よりも、ヨットレースや動物の保護活動に夢中だった。言い換えれば“退屈”していたのだ。

スルートマンがスノーフレークのCEO職に興味を示すと、シュパイザーは飛び上がって喜んだ。だが、一つだけ問題があった。誰もマグリアに、CEO交替の話をしていなかったのだ。結局、マグリアは更迭された。彼は「ショックを乗り越えるのに数カ月を要した」と、当時を振り返っている。

「取締役会に『コストのことは気にするな』と言われて投資し続けていました。金をばらまいていることを心配していたのですが、彼らは『大丈夫だ。その調子で続けてくれ』と、話していたのです」

新CEOに就任したスルートマンがまず手がけたのは、営業部門の再編だ。大口の顧客を相手にするチームを残りの部隊から切り分け、より大きな魚を狙えるようにした。反発する者は、容赦なく追い出した。

そして、前職から2人の最高補佐官たちを引き抜いた。財務担当のマイク・スカペリと、人事担当のシェリー・ビーガンだ。1カ月もすると、スノーフレークはパフォーマンスベースの人事制度に移行した。その間、スカペリは会社の財務状況を精査した。その結果、従来の価格設定ならば顧客はストレージを拡張できるものの、収益予測を立てるのは難しい、と判断。大口の顧客との連携を密にし、需要の増減を予測しやすい体制を確立した。

スルートマンは、スノーフレークを単なる“データの倉庫”ではなく、人工知能(AI)にデータを供給するハブに育てようとしている。彼は、同社が相手にする市場を現状の140億ドル規模から810億ドル規模に伸ばすためのプロジェクトの責任者に、共同創業者のダジェビルを起用することに決めた。

「巨大企業が今後の5年間を一緒に過ごすベンダーを探す場合、スノーフレークは有力な選択肢になる」と、ドイツ銀行のアナリストは述べている。ただ課題の1つはスノーフレークの現在の株価が、予想していなかった水準にまで上昇している点だ。仮に、スノーフレークが停滞した場合、IPOで大金を得た従業員は会社を離れるかもしれない。

しかしスルートマンは、彼の能力に疑いを抱く人々はいずれ後悔すると考えている。スノーフレークが上場した翌日、彼は幹部たちに次の四半期の計画を出すように命じた。彼は、「IPOはエキサイティングなものではない」と、こともなげに言う。

「私は、水平線の彼方を見据えていますよ」


スノーフレーク◎2012年創業、米カリフォルニア州サンマテオに本社を置くクラウド型SaaSデータストレージ企業。創業者はフランス出身のエンジニア、ビノワ・ダジェビルと、ティエリー・クルアネス。19年5月にサービスナウ前CEOのフランク・スルートマンをCEOとして招聘。20年9月にテクノロジー企業としては米史上5番目の規模のIPOを果たし、大きな話題を呼んだ。

文=アレックス・コンラッド 写真=クリスティー・ヘム・クロック 翻訳=左近充ひとみ / パラ・アルタ 編集=上田裕資

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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