ビジネス

2021.08.15

小さいからこそできる、発想法のヒント クリエイターと共創し、何が生まれたのか

スモール・ジャイアンツ集中連載「Creative Ideation for R&D」 左から順に由紀精密事業企画グループ原盛夫、代表取締役大坪正人、Whatever CCO川村真司、由紀精密社長永松純


大坪は「いろんな金属を同じ条件で加工してみた」という動画シリーズを提案。「スローモーションで加工ミスばかりを集めた動画なども見てみたいですね。迫力はあると思います。それ以外にも、野菜を高精度に削るのも面白いかもしれません」

すると川村は「加工系は実際に映像を見ないと判断が難しいですね。同業者にしか伝わりにくい映像になってしまうかも。しかし『野菜を高精度に削る』のは面白そうです。料理の飾り切りでもっとすごい精密な削り方ができたら、日常の料理というテーマと非日常的な高精密な加工が掛け算でき、共感されるコンテンツが作れるかもしれません」と答えた。

クリエイティブの視点からは「技術のデモンストレーションだけではコンテンツとして拡散力はなかなか生まれません。人々が気になって見たくなるようなフックを見つけて掛け算することで、初めてちゃんとしたアイデアの形が見えてきます」と助言した。


「いろんな金属を同じ条件で加工してみた」動画案。別のアイデアに話は広がった

由紀精密側から一通りアイデアを紹介されると、川村は「ブランドが伝えたいメッセージを伝えつつ、話題になる企画を生み出す作業は、藁の中から針を探すようなもの。由紀精密さんはきちんと自社の強みを理解された上で、どうしたら新たなファンを獲得できるかという視点を持って企画ができていると感じました」と語り、こう続けた。

「発想の方向性や視点を『アイデアの種』と呼んでいるのですが、正しく磨けば光る要素がたくさんあるので、どうしたらよりユニークで話題性のあるコンテンツにできるかという視点でアイデアを発展させていけたら、マーケティング面の課題にアプローチしやすいのではと思います」

精密技術x異分野の掛け算で、話題化を


続いて川村が、Whateverのクリエイティブチームから出たアイデアをカテゴリー別に紹介した。

まずは由紀精密のヒット作、精密コマ(SEIMITSU COMA)という既存の事例をあえて拡張し、「遊び」をアップデートするアイデアから。すでに由紀精密がもつIPを拡張することで、話題化だけでなく、過去の商品にも再び脚光を集め「遊び」を中心とした継続的なR&Dでファンを広げていくことが狙いだ。


ひとつ目のアイデアのカテゴリー:「遊び」をアップデート

精密な竹トンボで世界最長飛行記録を目指すアイデアや、継ぎ目が見えないルービックキューブをつくる案などが出された。企画書には、コンセプトやデザインだけでなく、商品を活用したマーケティング・プロモーションの展開方法まで記されていた。例えば、ルービックキューブの案にはこんな説明書きがある。

「由紀精密の精密加工技術でつくる、ベゼルも隙間も見えないパーフェクトなルービックキューブ。回転させてもぴったりと立方体に納まり、美しい金属のヘアラインを生かした着色のみで各面の違いが分かるようにデザインします。プロダクトとして販売しながら、ルービックキューブの世界ランカーに遊んでもらった動画などでさらに話題化を狙い、新しいジャンルのルービックキューブ競技としてもPRしていきます」


継ぎ目の見えないルービックキューブ「PERFECT RUBIK’S CUBE」のイメージ図 (c) Whatever

大坪は「竹トンボは、実は学問的に理論が確立されている分野なので加工しやすい素材で再現するだけでは面白くない。あえて竹という素材で精度を出すチャレンジをしたいですね。ルービックキューブは『自転ルービックキューブ』を見たことがあり、面白いなと思っていたアイデアでした。いただいた案は構造的にひと工夫しないと難しいですが、やれないことはないと思います」と語った。


両社のアイデアをもとに話し合うメンバー。雑談を交えながら和やかな雰囲気で行われた
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文=督あかり 写真=苅部太郎 イラスト=Whatever

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