実用化が進む世界のワクチンパスポート ブロックチェーンの活用と現状

ワクチンパスポートのイメージ(Morsa Images/Getty Images)


ブロックチェーンを利用した世界の実例


ブロックチェーンを活用したワクチンパスポートは、すでに世界中で実用化が進められています。

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イスラエルで導入されている「グリーン・パス」(Amir Levy/Getty Images)

米国ニューヨーク州の「Excelsior Pass」は、ニューヨーク州がIBMと共同で開発したデジタルワクチンパスポートです。Excelsior Pass Walletというアプリを使い、スマホに利用者の接種証明やPCR検査結果、抗体検査結果をデジタル保存することができます。また、その接種証明書をQRコードとして出力したり、証明書の券面を印刷することも可能です。

この証明書と本人確認書類を提示することで、イベントや施設への入場を認めようとする取り組みが進められています。

アプリケーションはIBM Digital Health Pass solutionで構築されており、ブロックチェーンの基本的な認証方式を利用することで、本人のスマホアプリにあるワクチンの接種状況や健康状態を証明することができます。また、この際に自治体や企業側は本人の医療情報や個人情報にアクセスすることができません。

ICC AOKpass」は、「国際商業会議所(ICC)」と、ロンドンとシンガポールに本社を置くグローバルな保健衛生認証サービスの業界リーダー「インターナショナルSOS」、スイスに本社を置くグローバルな検査・試験・認証企業グループの「SGSグループ」、それにシンガポールのスタートアップ企業「AOKpass」が共同で開発したヘルスパスポートで、ワクチンではなくPCR検査結果の活用として実用化されました。

主な利用者は航空輸送や貿易に関わる従業員で、各地の保健当局や取引先企業に対し、COVID-19のPCRテスト結果を提示するというユースケースが想定されています。利用者はモバイルアプリケーションに、提携研究所で実施された検査結果を記録し、携帯することで、入国審査手続きをスムーズに行えるようになります。

このアプリケーションはイーサリアムのパブリックブロックチェーンネットワーク上に構築されており、個人の健康情報は秘匿化され、プライバシーの問題をクリアしています。

日本から最も近い海外リゾート地として知られる韓国の済州島では、観光客の身分証明と行動追跡のための観光パス「Zzeung」にブロックチェーン技術を採用しています。

観光客はアプリをダウンロードし、本人情報を登録します。この際に、行動制限を受けるか否かを検証するためPINコードがブロックチェーンに保存されるのですが、本人情報はスマホアプリ内のみに保管されることとなります。

観光客は観光スポット各地へチェックインする際にスマホアプリでQRコードを提示し、現地企業はブロックチェーン上の情報とPINコードを照らし合わせ、施設の入場可否を判断します。本人情報とPINコードは分離されているため、利用者のプライバシーが侵害されることはありません。

このように、より精度が高く柔軟に利用できるデジタルなワクチンパスポートが普及することで、行動制限が緩和され経済活動が活発化することは喜ばしいことです。

しかし、日常のあらゆるシーンでワクチンパスポートが登場することで、思想信条や宗教上の理由でワクチンを打たない人や、妊娠や持病等の事情によってワクチンを打ちたくても打てない人が差別的な扱いを受けるといったことがないよう十分な配慮も必要でしょう。

ブロックチェーンは、利用者のプライバシーや自己決定権を尊重しながら、真正な情報を記録し共有することに長けた技術であり、相互監視や私権制限を食い止めながらデジタル化の恩恵を最大化することを可能にします。

このような事情を背景にして、今後のワクチンをめぐる社会課題の解決へ向けて、ブロックチェーン技術の活用にさらに期待が高まっていくでしょう。

連載:ブロックチェーンビジネス最前線
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文=森川夢佑斗

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