ビジネス

2021.08.12

上場スキーム「SPAC」は起業家にとっての福音か、経済の悪夢か?



デビッド・ソロモン ゴールドマン・サックスCEO 投資銀行「ゴールドマン・サックス」のソロモンCEOは今年の1月に行われた投資家向けの収支報告でSPACに言及し、いずれ「揺り戻しがある」と予測した。同社はSPACを設立しているが、CEOは次の局面に備えているようだ。

「SPACのゴールドラッシュ」では、すでに問題が表面化している。例えば、ニコラ・モーターズは、SPAC合併を実施して電気自動車(EV)銘柄への投機マネーの大量流入を引き起こしたが、現在、資金調達の際に投資家をあざむいていたかどで米司法省が調査している。創業者のトレバー・ミルトンは同社を去り、話題となったゼネラル・モーターズとの提携も疑わしくなった。ニコラ株はSPAC合併が完了した時点から値を下げている。

少し前までは、ウォール街ではフラッキング(水圧破砕法による石油・天然ガス開発)も大ブームだったが、SPACのIPOはそこでも迅速かつ簡単な資本投入の手段を提供した。エネルギー系の未公開株投資会社「リバーストーン・ホールディングス」は、3社の大規模なSPACを株式公開させている。1社目は16年3月に4億5000万ドルを、さらに2社が17年に170億ドルを調達した。そのどれもが、シェールオイル・シェールガス事業への投資で利益を上げる目的のSPACだった。

リバーストーンのSPAC「シルバー・ランII」は、アルタ・メサ・リソーシズを18年に買収したが、同社はオクラホマの油田の評価損によって38億ドルの時価総額を失い、瞬またたく間に倒産した。リバーストーンの他のSPAC2社も合併を完了しているが、どちらの株も、現在は1株3ドル以下で取引されている。

惨憺たる実績にもかかわらず、リバーストーンは20年10月に4社目のSPAC、「ディカーボネーション・プラス・アクイジション(脱炭素と買収)」のIPOで2億ドルを調達した。シェール資源のフラッキング開発は流行らなくなったため、今度はクリーンテックに移ったわけだ。

「希望の泉は枯れない」ということだ—。それも、“ヘッジファンド”の資金を当てにできる場合は。

文=アントワーヌ・ガラ、エリーザ・ハバーストック、セルゲイ・クレブニコフ 翻訳=木村理恵

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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