ビジネス

2021.08.12

上場スキーム「SPAC」は起業家にとっての福音か、経済の悪夢か?



クリス・サッカ ローワーケース・キャピタル創業者 グーグル勤務を経て、ベンチャー投資家に転身し、ツイッターやウーバーへの出資で成功したサッカ。起業家に対して「(SPACに) 気を取られないように」と、本業に集中するよう、自身のツイッターで促している。

20年10月の段階でSPACで調達された650億ドルのうち、フォーブスの試算では、パリハピティヤのようなスポンサーは、合計で100億ドルを超える無償の株式を手に入れているはずだ。彼らにとってはすばらしい話でも、それ以外の株主にとってはひどい話だ。

実のところ、標準的なSPACが合併契約を結ぶころには、ヘッジファンドが受け取るワラントや引受会社に支払う引受手数料、そしてスポンサーが受け取る高額のプロモートによって、IPOの収益の30%以上が食いつぶされているのだ。前出のオーロッゲとクラウズナーの研究によると、平均的なSPACが買収対象企業と合併契約を締結するころには、当初のIPO価格10ドルのうち1株当たり6ドル67セントの現金しか保有していない。

「典型的な発起人株の規定の問題点は、破格の報酬や、本質的に他の株主とインセンティブにずれがあることだけではなく、発起人株が株式の大幅な希薄化を引き起こすせいで、魅力的な条件で合併取引を完了できないという事実です」と、モノ言う投資家のビル・アックマンは語る。

アックマンら一握りのスポンサーは、市場の投資家にとってより公平なSPACを構築しようとしている。20年7月、アックマンは「パーシング・スクエア・トンティーン・ホールディングス」というSPACを上場させ、史上最高額となる40億ドルを調達した。現在は買収対象を探しているところだが、同社の株主は他のSPACと比べて株式の希釈がずっと小規模で済む。プロモートがないからだ。しかし、大半のSPAC取引には、アックマンのように公平性を考慮するスポンサーはいない。

前出のニューヨーク大学のオーロッゲによると、合併取引が発表された6カ月後には、SPAC株のリターンの中央値は12.3%の損失になっている。発表の1年後にもなると、大半のSPAC株は35%下落している。現在、見込みのある買収先を探しているSPACは何百社もあり、彼らが切羽詰まるようになるにつれ、リターンは悪化する可能性が高い。
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文=アントワーヌ・ガラ、エリーザ・ハバーストック、セルゲイ・クレブニコフ 翻訳=木村理恵

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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