ビジネス

2021.08.13

難しい素材にも高精度で挑むパイオニア 由紀精密に何が「物足りない」のか

スモール・ジャイアンツ集中連載「Creative Ideation for R&D」 左から順に由紀精密代表取締役大坪正人、Whatever CCO川村真司、由紀精密社長永松純


大坪が「私も1年ほど知らず、こそこそやっているな、と」と言うと、永松は「最初に提案すると、ターゲットや価格帯、マーケットなどマーケティング調査を積まなくてはなりません。原理は試作してみないと分からないので、まず作り始めちゃえ!という気持ちで進めました」と明かした。

川村は思わず「まずは作っちゃえ、という精神ですね。作って実物をみることで、紙の上のアイデアだけでは気づけないような新しい発見があったりしますよね。その推進力やプロジェクトの進め方にはとても共感します」と語った。実はWhateverもクリエイティブのコンサルタントのような位置づけだけでなく、自ら製品開発などを手がける「考えて作るクリエイティブ」を実践している。

そして大坪は「プロダクトアウトは否定しません。ですが、その後のマーケットが広がらなくては意味がありません。この点は今後、期待しているところですね」と意気込みを語った。

例えば、これまで10万個も売れたという高精度のコマ「SEIMITSU COMA」であっても「テレビでバズってボンっと売れて、そのあとは細々と10年間かけて10万個です」と語る。企業のプロモーション施策として、コマに社名を入れて配布するためのノベルティーを制作して、7000個受注される事例などもあったが、継続的に売り出す難しさを感じている。

強みの「精密さ」を分解!


川村:「御社は精密さを強みとしていますが、精密という言葉を分解すると、どんな意味が込められていますか?」

永松は「技術者っぽくない話をすると、美しさですね。図面には書かれていない、表面のざらつきや旋削目のクオリティなど。単なる数字上はミクロン単位で正確なものが作られます。さらに加工し終わった後の検査では、その部品が美しいかどうかを見ています」と答えた。そして大坪はこう付け加える。「精度が図面通りであっても美しさにこだわり、やり直してしまうことも。オーバースペックなんですよね」

また、必然的に難削材の加工が多くなるが、設備はそこまで特殊な工作機械ではないという。永松は「チタンやニッケル合金などは難しい材料で、精度が出せなかったらどうしようと普通は怯えますが、うちの場合、蓄積されたノウハウがありますので、恐怖感はあまりありません」と語った。大坪は「昔は怖かったですよ。そもそも真鍮やアルミなどを受注していましたが、それらの加工しやすい素材は加工単価が安くなりすぎてしまって。それから徐々に難削材の加工を請け負うようになりました」と語った。

川村:「今後、未踏の分野で挑戦したいエリアなどはありますか?」

永松は「宇宙より難しいのは、海だろうと時々思いますね。海底や深海ですね。自分で行くのは怖いですが」と答えた。宇宙と似た環境で、通信が困難であり、高圧に耐えられるような装置が必要なためだ。大坪はぽつりとこう言った。「エクストリームエンジニアリングは、由紀精密らしいキーワードですね」


社員のポロシャツの背中には、由紀精密のロゴ「YUKI」が。クリエイティブ面にもこだわりの高さを感じられる

今回のヒアリングを通じて、由紀精密では高精密な切削加工技術を生かした唯一無二の事業展開ができているものの、継続的なプロモーションなど不得手な面も見えてきた。

今後、Whateverとともに、由紀精密はどこへ向かっていくのか。次回は、このヒアリングから見えてきた課題や方向性を整理し、アイデア出しの前に押さえるべきポイントを抽出する。

文=督あかり 写真=苅部太郎

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