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2015.05.21 16:19

為末 大 /スポーツの知見と技術で「人間の幸福」に貢献したい【G1「100の行動」】




アスリートのセカンドキャリア支援を行う「アスリートソサエティ」、走ることから食まで幅広い学びの場である「為末大学」、競技用義足を開発する「Xiborg」―。

私はスポーツにまつわる教育や研究を中心に、多岐にわたって活動をしていますが、その源にあるのは強い好奇心です。選手時代はシンプルに「自分はどこまで速く走れるんだろう?」ということに、そのすべてを注ぎ込んできましたが、引退にあたり、これから何に打ち込むべきか迷ってしまいました。

アスリートのセカンドキャリアというと、一般的にはスポーツ解説者やコーチといったものを思い浮かべるかもしれません。しかし、自分は勝負の世界の人間だという意識が強く、世界でもう一勝負したかった。また、以前から「世の中にインパクトを与えたい」という目標を抱いてきたこともあり、引退したアスリートとしてはちょっと風変わりな、ベンチャーキャピタルにチャレンジする道を選び、いまに至っています。

選手時代に痛感したことのひとつに、トップレベルの領域に入っていくと、他国の選手の真似をしても勝てない、というのがあります。しかし、それは裏を返せば、こちらの真似もできないということでもある。これはスポーツに限った話ではありません。そこで「日本のスペシャリティって何なんだろう?」と自問した結果、行き着いたのが、スポーツを介しての「人間の身体とモノ・技術の関係」でした。そして、「モノ作り」という日本人ならではの武器で勝負することこそが、「日本をよりよくすること」に繋がっていくと思うのです。

そうした発想をもったのには、G1メンバーのあすかアセットマネジメント・谷家 衛(たにや まもる)会長と面識があったことが大きかった。谷家さんは、ライフネット生命保険やインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢の創業支援でも知られていますが、谷家さんの考える「成功する起業家/経営者」像と、スポーツにおける「優れた選手/コーチ」像には共通点も多く、アスリートである私にもすごくわかりやすかったんです。また、選手時代にラスベガスのテクノロジーショーに参加したことがあり、そこで触れた最先端技術も大きな刺激になりました。 

人間の「身体」には、これからもっとフォーカスの当たる時代が来るという強い予感があります。例えば、日本の超高齢化社会問題。今後、さらに高齢者が増えていき、国に医療・社会保障費が重くのしかかってくることを考えると、人の身体をいかに健康で動ける状態に保つかは、非常に重要なテーマだといえます。また、高齢者が多い国では必然的に高齢者用の技術やサービスが育つはずで、それも考えようによっては「日本人ならではの武器」になりえるのではないでしょうか。 現在もっとも力を入れているのがXiborgで、2015年5月に義足の完成を予定しています。モノの性質上、市場自体は大きくないのですが、ここからサポート器具や人工関節の開発といった方向に事業を広げていくことも可能です。私は、人間の身体は拡張できるはずだと考えています。そして、そのためのテクノロジーと、人間らしい社会のありようは相反するものではない。今はまだ、ロボット義足を福祉業界に売り込んでも、突拍子もないアイデアに映るかもしれません。理解してもらうには時間もかかるでしょうが、根気よく説明を続けていくつもりです。自らが動けることの喜びは、動けなくなるまでわかりません。テクノロジーで寿命は延ばせないかもしれませんが、例えば“散歩する喜び”は与えることができる。これからも、そうした身体を伴う「人間の幸福」に、スポーツの知見を生かしていきたいと思っています。

G1「100の行動」とは
「G1サミット」の代表理事であり、グロービス経営大学院学長の堀義人が発起人となり、「G1政策研究所」のメンバーと議論しながら、日本のビジョンを「100の行動計画」というカタチで国民的政策論議を喚起しながら描くプロジェクト。どんな会社でもやるべきことを10やれば再生できる。閉塞感あるこの国も100ぐらいやれば明るい未来が開けるだろうと、東日本大震災直後の2011年より開始した。現在、100の行動のうち、85が公表されている。

笠井爾示=写真 辻本 力=文

この記事は 「Forbes JAPAN No.10 2015年5月号(2015/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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