台湾侵攻を準備する中国が描く「官民一体」のシナリオ

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中国海軍は、台湾侵攻の際に数百万人規模の部隊を、港湾設備に頼ることなく上陸させるための十分な数の揚陸艦(ようりくかん)を保有していない。仮に中国が数千隻の揚陸艦を運用できたとしても、台湾上陸で想定される14ヶ所のビーチは面積が小さく、それだけの人員を収容することができない。

中国が台湾に侵攻する場合に鍵を握るのは、台湾の主要な10港を無傷な状態で占拠することだ。中でも、台湾中部の西岸に位置する台中港はその最有力候補だ。港を占拠できれば、臨時で軍事利用されている数千隻もの中国の商船が、侵攻部隊を輸送することが可能になる。

この作戦はリスクが高いが、中国共産党は台湾の港を占拠するために必要な措置を着々と進めている。近年の中国企業による台湾企業の買収により、台湾ではいくつかの主要な港湾建設の責任者に中国共産党の支持者が就任した。有事の際、これらの支持者が中国軍に重要な機密情報を提供し、侵攻を手助けすることが懸念される。

「中国共産党は、過去20年間で台湾の主要な港に駐在員事務所を設置したほか、台湾の港湾建設プロジェクト投資し、基礎的な港湾インフラに直接アクセスできる状況にある」と米バージニア州に本拠を置くシンクタンクProject 2049 Instituteのアナリスト、イアン・イーストンは最新のレポートで述べている。

イーストンは、高雄港の高明コンテナターミナル(Kao Ming Container Terminal)を例に挙げる。1000隻の運航隻数と数十万人の従業員を誇る中国の海運大手コスコシッピング(中国遠洋海運集団)は、2018年7月に高明コンテナターミナルの株式の過半数を取得した。

高明コンテナターミナルには自動化されたスマートクレーンが導入されているが、製造しているのは中国の国有企業である上海振華重工だ。イーストンによると、同社は中国軍と関係が深く、台北港にも同社のスマートクレーンが導入されている。

米国防総省は昨年、上海振華重工の親会社である中国交通建設股份有限公司(ZPMC)が中国軍と関係が深いとしてブラックリストに追加した。

スマートクレーンは、センサーと通信のノードとして機能する。「ZPMCが高雄港や台北港などに導入したコントロールシステムは、港に設置された監視カメラによる中央集中型ネットワークを用いている。彼らは、RFIDタグをトラックの車体に設置し、トラックやコンテナの位置を追跡するシステムも導入している」とイーストンは話す。

台湾の対抗措置は可能か?


台湾にいる中国人の港湾オペレーターは、中国軍に機密情報を提供することができる。彼らが民間企業に勤務しているからといって、機密情報を外部に漏らさないと考えるのは危険だ。中国共産党は昨年、国家情報法によって民間企業に軍の諜報活動に協力することを義務付けた。

「中国の民間企業は、共産党や軍に逆らうことができない。中国共産党は、長い間民間人を使って軍事作戦を実行したり、戦略的価値の高い機密情報を収集してきた」とイーストンは述べている。

台湾は、中国によるこうしたソフト面での侵略に対抗する力を保持している。「台湾政府には、自国を守るために実施できることが沢山ある。まず、中国共産党が管理する駐在員事務所を閉鎖することができる。また、中国軍と繋がりのある重要な港湾インフラを排除し、他のものに置き換えることも可能だ」とイーストンはレポートで述べている。

しかし、台湾政府が実際にこうした取り組みを実施するかどうかは不明だ。

編集=上田裕資

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