正義感でミャンマーを語る前に


数年前の都心の高級ホテルであった。霜降りの鉄板焼きを満足そうに平らげ、ミャンマーの近代化と日本勢の証券取引所開設支援を熱く語る人物がいた。ウィン・シェイン財務大臣だ。退役軍人だが、ミャンマー投資委員会委員長も兼任し、証券取引所開設に意欲を燃やしていた。子どもを海外留学させ、妻には日本の高級化粧品を探す大臣のフランクな姿に、国軍上がりのイメージが一変したものだった。後日、私はヤンゴンの資本市場パネル討論で彼と再会したが、取引所機能への正確な理解には感心した。

現在、ミャンマーの軍事政権は国際社会からの強い批判に晒されている。その非人道的行為は許されようもない。軍事政権はこの国をどこへ向かわせようとしているのだろうか。

日本のミャンマーへの関与は非常に深い。簡単に撤退、制裁とは言えない。だが、軍事政権による人権抑圧は座視できない。グローバルな企業社会ではサステナビリティ経営としての人権が重視される時代でもある。他方で、欧米からの制裁による空白を狙い撃ちするように、中国やロシアの浸潤が予見されている。わが安全保障にとっても脅威となる。

日本はかつての制裁時、ミャンマーとは細いが強い絆を保ってきた。戦前からの深い関係もある。これらが相まって、良好な日緬関係をつくり上げてきた。軍事政権もさまで愚かではないと思う。この春のクーデター後の組閣名簿には、かのウィン・シェインの名があった。ポストは計画・財務・工業大臣だ。経済政策のトップである。これも何かのサインではないか。

いまの軍政のやり方は地球社会に通用せず、いずれ内訌(なんこう)破綻する可能性が高いことを諭す余地があるはずだ。しかし、それを欧米流の論理と正義感だけで論破しようとしても反発を招くだけである。文化、歴史、風俗、価値観に通底する基盤を共有する、アジア流の説得術が必要だ。そこにこそ日本の出番があると思う。

ビルマ独立の立役者、アウン・サンは日本に滞在し、大きな援助を受けた。

面田紋次。アウン・サンはこの日本語名をすら使っていたのである。


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。日本証券業協会特別顧問、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.083 2021年7月号(2021/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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