座頭市を愛する高校生の「切り抜けない」青春群像 | 映画 サマーフィルムにのって

忘れかけていた輝けるひと夏を思い出す青春映画だ(c)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

ステイホームの「巣ごもり需要」で、配信による映画視聴の伸びはこのところ著しいという。映画館とは異なり、いつでも視聴をやめられたり、切れ切れに観賞できたりするのは便利かもしれないが、その一方で動画投稿サイトなどには無断で映像を使用し、長い1本の作品を10分程度に編集し直した「ファスト映画」と呼ばれるものも出現し問題になっている。

「ファスト」とは英語の「fast」に由来しているわけだが、手っ取り早くストーリーや内容を知りたい、大まかな粗筋を短時間で辿ることで全編を観た気分になりたいという人が増えているのだろうか。DVDを常に早送りで観賞するという知人がいたが、とはいえ、果たしてこれも映画観賞と言えるのだろうかと、筆者は少し憂鬱な気分で考えるのである。

そんなとき、こうした流れとはまったく対極にある、ほとんど偏愛とも言うべき「映画愛」にあふれる主人公を描いた青春映画に出会った。時代劇オタクの女子高校生が、自ら執筆した「武士の青春」という脚本をもとに、仲間たちと一緒に映画を撮るという物語、タイトルは「サマーフィルムにのって」という作品だ。

主人公は「座頭市」を愛する女子高校生


高校で映画部に所属するハダシ(伊藤万理華)は、勝新太郎の「座頭市」を愛してやまない時代劇オタクの女子高校生。授業を終えると、河原の橋の下に置かれた廃ワゴン車に駆けつける。そこは、古い時代劇の映画ポスターやビデオなどが置いてある「秘密基地」で、ハダシは親友のビート板(河合優実)やブルーハワイ(祷キララ)と集っては至福の時間を過ごしていた。

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(c)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

映画部では、秋の文化祭で上映する作品企画の選定が進行しており、ハダシの提案した「武士の青春」は、ライバル花鈴(甲田まひる)が監督・主演を務めるキラキラ恋愛映画の前に、圧倒的多数で敗れる。時代劇好きのハダシは部では少数派の存在なのだ。

しかし、映画部の作品として企画が通らなかったハダシは、自ら脚本を執筆した「武士の青春」の撮影をあきらめきれない。ただ、主役の猪太郎にぴったりの「役者」がなかなか見つからず、苦慮もしていた。

ある日、時代劇を上映している名画座で、同じ映画を観ていた凛太郎(金子大地)に出会う。涼やかな瞳で、どこか悲しみを宿す凛太郎に、ハダシは「武士の青春」の主人公である猪太郎を重ね合わせていた。互いに時代劇好きということもあり、その場で出演交渉を始めるが、何故か倫太郎は頑なにハダシの依頼を突っぱねるのだった。

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(c)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

この後、逃げ出す凛太郎を追ってハダシの追跡劇が始まるが、橋から川へと飛び込む彼を追って、自らも決死のダイビングをするシーンは、彼女の作品に賭けるほとばしる熱量が現れていて、強烈な印象を残すシーンの1つだ。

実は、凛太郎には出演を固辞する思いもよらない理由があり、それが冒頭で触れた「ファスト映画」に対するアンチテーゼのようなものともなっており、そのあたり「ただの青春映画」とは一線を画す、強いメッセージ性も含まれた作品ともなっている。ネタバレになるので多くは書かないが、その凛太郎の「秘密」がラストシーンに大きな感動を呼び起こす誘因ともなっている。
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文=稲垣伸寿

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