素通りの街をよみがえらせる方法

illustration by Ryota Okamura


なぜ、これだけの人たちを大塚のイノベーションに巻き込むことができたのか。私が面白いと思ったのは、不動産をもつプレイヤーがビジョンをもったとき、強烈な推進力が生まれるということだ。

不動産会社の経営の根幹には「利回り」がある。大手デベロッパーと比べて資金力で劣る地域の小さな不動産会社は、長期的な街の魅力づくりよりも、利回り重視の経営に意識が注がれやすい。それゆえに、地域で行われる街の活性化は、実はこの不動産という重要な要素と切り離されていることが少なくないのだ。土地の所有者と、街のコンテンツをつくろうという側が一緒になることはまれである。大塚の場合は、それが一体化しているので、機動力をもってプロジェクトを進められるというわけだ。

もちろん地元行政の後押しも欠かせない。武藤氏を私に引き合わせてくれたのは豊島区国際文化プロジェクト推進室長の馬場晋一氏という行政マンだ。馬場氏は、区内外のさまざまな業種のキーマンを区内の事業者に引き合わせることに日々奮闘している。この動きの積み重ねと、大塚の街をよくしたいというリーダーのビジョンがうまくリンクした結果、さまざまな巻き込みの成功につながった。

それぞれの地域には、力は限られていても、街をよくしたいという強い思いをもったチェンジリーダーがいるはずだ。地元のみんなで協力して関係人口を増やし、ビジョン、不動産、コンテンツ、そして行政の結びつきを強めていけば、大手デベロッパー主導ではなくとも、独自色の豊かな街の活性化が実現できると、大塚の例を見て感じた。


なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズに上場した。

文=中山亮太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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