「修理する権利」は新しい社会モデルのヒント

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先日、渋谷の東急ハンズをぐるぐる回っていたら、突然ずらりと古い家電の並んだ「デザインアンダーグラウンド」という昭和レトロなコーナーに行き当たった。オシャレな最新グッズが並ぶ店内で、最近は目にしないラジカセやステレオコンポ、また演歌や歌謡曲のカセットテープも山のように積まれ、ちょっとした異次元空間だ。

どうやら昔の家電の販売や修理を行っているようで、なつかしいモデルも買えるし、故障した長年愛用していたコンポなどを持っていくと、店主が集めたジャンク品から取り出した部品を付け替え調整して復活させてくれる。

修理するより買い替えの時代


デジタル時代にそんな需要があるのかと思うが、最近のレコードやカセットテープのアナログ復活ブームで、高齢者ばかりかその時代を知らない若者にも評判になっているらしい。

店主の松崎順一さんは「収集家ではなく、蒐集家」(より一途に集める)を名乗る業界の有名人。もともとデザイン会社で働いていたが、趣味の家電集めが高じて独立して店を出し、アート展とのコラボやイベントも数多く仕掛けてメディアにもよく登場し、テレビ番組の時代考証なども手掛けているという。

クラシックカーやアンティーク時計、古美術品やビンテージ楽器など、骨董品としても価値がある物には昔から修理をしてくれる専門店があったが、家電はまだその域には達していない。最近やっとアップルの最初のコンピューター(Apple-1)が約2000万円で競売され、そろそろアナログ家電や初期のデジタルガジェットも骨董品の仲間入りをしつつあるようにも思えるが、まだまだほとんどは中古の消耗品扱いだ。

パソコンを中心に3カ月程度でバージョンアップや新製品が登場するデジタル時代には、昔の家電を後生大事に使い続ける人(主に老人)は時代に取り残された存在に見えるかもしれない。だが最初に馴染んだ機器や思い出がある装置は、性能が悪くても持ち主には可愛い存在だ。

アナログ家電は10年程度の寿命が相場で、テレビが一気に4Kになって画質が向上するなどというテンポの速いイノベーションとは無縁だった。デジタル時代はハードよりもソフトの向上が製品をどんどん陳腐化させ、早いサイクルで買い替えを促す。性能が向上するのが当たり前と使い捨てのように買い替えていくのは、エコではないしSDGs的にも困った話だが、便利になればかまわないと考えるのが今の風潮なのだ。

以前の家電の修理は、個々の部品を取り換えたり調整したりするのが主だったが、最近のデジタル家電は用途に特化したコンピューターのようなものなので、操作ボタンやモーターなどの部品は少なく、ほとんどの機能がチップの中に入っている。そのため、修理は基盤ごと取り換えるしかない。業界では、「エンジニアはおらず“チェンジニア”(交換担当者)しかいない」と揶揄する声も聞かれる。

基盤の価格がほとんどなので、修理費は同じモデルを中古で購入しても同じぐらいになる。事実、先日ICレコーダーをメーカーの修理センターに持っていったら、直せないから在庫品を安くするので買うように勧められた。たとえ悪い箇所を細かくチェックして直せても、元の製品の価格と大差ないので、それなら在庫品に取り換えたほうがいいというおかしな状況になっている。
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文=服部 桂

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