EVの利点に関する主張を疑う者はほとんどいないものの、温室効果ガスだけが世界の汚染問題というわけではない。たとえば、EVの先頭を走る中国では、EVバッテリー廃棄物が、温室効果ガスとはまた別の深刻な環境リスクになりつつある。中国が経験していることは、米国の次なる環境不安を垣間見せている可能性もある。
完全EVにしてもハイブリッドにしても、EVは世の中に急速に受け入れられつつある。米運輸省の最新の統計によれば、すでに米国の道路ではほぼ200万台のEVが走っており、全体から見ればまだ割合は小さいものの、4年前の数字の3倍にのぼっている。
それは驚くにはあたらない。気候変動との闘いに貢献したいという一部の所有者の純粋な意欲に加えて、米連邦政府は以前から、EV購入に関して最大7500ドルの税控除を導入しており、一部の州はそれにさらに上乗せしている。手厚い補助金が提供され、環境問題に対する一般市民の意識がおそらく米国よりも高いEUでは、320万台前後のEVが道路を走っており、英国でもほぼ80万台にのぼる。
だが、世界をリードしているのは中国だ。中国は、世界のEVの半数以上を製造している。中国政府の推計によれば、中国の道路を走るEVの数は、2021年に世界の既存EVのおよそ半数にあたる約580万台に達した。
だがいま、そうしたEVの隆盛から、中国で深刻な環境問題が新たに生まれつつある。EVバッテリーには毒性があり、汚染力がきわめて強い。当初、この問題はあまり明らかになっていなかった。EVバッテリーの寿命は5~8年であるため、中国がバッテリーを安全に廃棄する方法を見つける必要に迫られるまでには、しばらく時間がかかったからだ。だが2020年には、中国はおよそ20万トンのバッテリーを廃棄しなければならなかった。中国政府の予測によれば、この数字は今後4年で年間40%を超える率で増加し、80万トンに達するという。
EVバッテリーには、コバルトやニッケルなどの重金属が含まれる。また、土壌や水、空気を汚染するマンガンも含まれる。マンガン鉱石を粉砕するなどして粉塵が発生する職場では、1立方メートルの空気に500マイクログラムのマンガンが含まれているだけで、マンガン中毒が生じるとされる。