これで「Shark Tank」は、エミー賞でのノミネート数は通算で20となり、長期にわたって番組のクオリティをキープし続けていることが証明されました。
受賞発表は9月19日に行われる予定ですが、2018年から毎年連続受賞を記録するNetflixの人気リアリティショー「クィア・アイ 外見も内面もステキに改造」(原題「Queer Eye: More than a Makeover」)など強力なライバル番組もあり、結果が注目されます。
「Sharks(鮫)」と呼ばれる億万長者たちが評価する。現在ではシーズン12まで展開されている (c)ABC/Sony Pictures Television
海外ビジネスにおけるローカライズの大切さ
日本で生まれたテレビ番組のコンテンツが、アメリカを代表するリアリティショーにまで発展したことが大きく影響して、世界各国でのリメイク化にも拍車がかかっています。番組フォーマットの展開国の数は前述のように40を超えています。
映像コンテンツビジネスの世界では、展開国数が40を超える番組は「世界的ヒット」と呼ぶに値します。わずか数年で40カ国に到達するケースも見られるなか、約20年かけて広がった「¥マネーの虎」はかなりのスローペースです。
とはいえ、短期集中で結果が出るものに比べると目立ちはしないものの、ロングシーズン化が見込める番組として貴重な存在であり、あらためてその価値が評価されているのです。
その価値とは、低予算の番組でありながら、長期でリターンがあることです。世界に向けて販売開始してから7年目で、日本テレビにおける「¥マネーの虎」単体の海外売上は1億円を越え、その後も右肩上がりで増え続けています。
日本テレビの2020年度連結決算の売上高約3913億円のうち、海外ビジネスの収入は前年から約2.5億円増の約27億円です。売れ筋であるアニメを含めた全タイトルのなかで、「¥マネーの虎」が海外売上ナンバーワンを維持しています。
2001年に深夜枠で放送がスタートした頃、この結果を誰が予想することができたでしょうか。深夜であろうと、異色の番組であろうと、視聴者から支持されたことは、その企画の素晴らしさゆえの必然であり、世界的ヒットに繋がったのかもしれません。
「¥マネーの虎」のリメイクをBBCで成功させ、アメリカを含む世界27の国と地域で長期にわたって制作・放送するまでに仕掛けたのは、イギリスのスモール・ワールド社代表ティム・クレセンティ氏(元ソニー・ピクチャーズ・テレビジョン・インターナショナル)です。
クレセンティ氏とは、5年前、フランスのカンヌで開催される世界最大級のテレビコンテンツ見本市「MIPTV」の日本テレビのブースでお会いしました。そのとき、なぜ「¥マネーの虎」というコンテンツに惹かれたのかを聞いたところ、その理由として次の3つを挙げてくれました。
まず国境を越えたわかりやすい企画性。次に挑戦者と審査員のビジネスプランと投資判断から見えてくる人の生き方。そしてタイトルでした。
タイトルに関しては日本では「虎」、イギリスでは「龍」、アメリカでは「鮫」と表現でき、展開国に合わせてイメージを膨らますことのできる柔軟性が素晴らしいということでした。現地の視聴者に響くためには、海外ビジネス全般に言えるローカライズの大切さを示しています。
「¥マネーの虎」は、今後も日本でも世界でも語り継がれていくサクセスストーリーであることは間違いありません。日本テレビは「¥マネーの虎」を越える番組開発にも近年力を入れており、正月の恒例特番「ウルトラマンDASH そっくりスイーツ」や、昨年コロナ禍で制作・放送された「音が出たら負け」などのフォーマットが、海外で放送・配信されています。チャンスはどのクリエイターにもあり、企画力1つで世界展開できるビジネスも可能であることを「¥マネーの虎」は教えてくれています。
連載:グローバル視点で覗きたいエンタメビジネスの今
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