その中国は、東欧やアフリカ諸国などにワクチンを支援し、自国への支持を広げる「ワクチン外交」を展開している。ロイター通信によれば、台湾と外交関係がある中米ホンジュラスのエルナンデス大統領は5月、国交のない中国に通商代表事務所を開設する可能性に言及した。中国製ワクチンを入手するのが目的だという。中米・カリブ地域台湾と外交関係を持つ国が多く、中国は台湾との断交を条件にワクチン支援をあちこちで働きかけている模様だ。
日本の茂木敏充外相も7月、この地域を訪れた。台湾と関係があるグアテマラでは、ワクチン支援の要請を受けた。グアテマラは親米右派政権で、中国からの支援を受ける考えはない一方、コロナの感染拡大に苦慮していたという。要請を受けた茂木外相は「何ができるかを考えたい」と答え、事実上支援を検討する考えを示した。これは、茂木氏のとっさの判断によるもので、「対面外交を行った成果」(関係者)なのだという。
政府関係者によれば、グアテマラへのワクチン支援は当初、外務省の構想に入っていなかった。外務省は、東南アジアや中東諸国などへのワクチン支援を重視する戦略を取っている。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗し、日米が安全保障に力を入れるインド太平洋地域への影響力を増やすためだ。このため、当初は中米諸国にまでワクチン支援を広げる余裕がなかったという。コロナ禍のなか、わざわざ中米地域まで足を伸ばした甲斐があったというものだろう。
このように世界のあちこちで、熾烈なワクチン外交やコロナの感染拡大を防ぐ厳格な入国制限が続くなか、「例外措置」が相次いでいるのが東京夏季五輪だ。入国後の隔離措置や感染者が出た場合の対応などで例外扱いが相次いでいる。国際オリンピック委員会のバッハ会長も広島を訪れたり、東京で歓迎会を催してもらったり、「遠距離移動自粛」「3密回避」のかけ声はどこに行ってしまったのかという有り様だ。自民党のベテラン議員も「バブル方式など所詮、言葉だけに過ぎない。穴だらけと言わざるを得ない」と話す。
この議員は「五輪をやってもやらなくても、インドから広がったデルタ型変異株の影響で、感染者が増えることは避けられなかった」と語る。ただ、間近で「例外措置」を見せつけられてしまっては、人々が「五輪のせいでコロナが広がった」と思うのは仕方がない現象だろう。菅義偉首相はじめ、政府与党はギリギリのところまで追い詰められている。議員は「お盆過ぎに政局が来ると思っていたが、もっと早まるかもしれない」と語った。
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