ビジネス

2021.08.02

シェアなどない。市場は自分で切り開け


入社3年目以降は、シリコンバレーを中心に世界を飛び回る日々。将来性のある商材を見つけては日本にもち込んだ。そのなかの一つに体脂肪計がある。アメリカで見つけた医療用機器にヒントを得て、日本で一般用に開発した。

「私たちがつくったのは、フィットネスセンターに置くような1台数百万円の機器でした。家庭用の小さな機器も開発しましたが、当時は量産技術がなくて、特許を取っただけ」

しかし、その特許が他社の目に留まって日本に体脂肪計が普及した。当時20代だったが、特許譲渡の交渉も自分でやった。

38歳で社長就任。異例の若さでトップになったが、「ほかに人がいなかっただけ。社長になる前から自分で仕事をつくっていたから、肩書がついても変わらなかった」と煙に巻く。

社長就任後は、市場を業務用からコンシューマー向けにシフトした。それが成長の原動力となり、09年に上場を果たした。山﨑は上場時によく聞かれた質問―市場シェア何%を目指すのか?―が嫌いだ。

「いまでこそ家電量販店にビューティ家電の売り場がありますが、私たちは何もないところから市場をつくった。だからシェアなんて発想はない」

開拓した市場は日本にとどまらない。いま中国ではヤーマンの美容機器が飛ぶように売れている。日本では、美容機器がスキンケア上級者の次のステップとして位置づけられているが、近年までスキンケアにお金をかける習慣がなかった中国は、いままさに市場が立ち上がっているところで、スキンケア化粧品も美容機器も横一線。若い女性が抵抗なく美容機器を買っている。同社の海外部門の売り上げも、同2.5倍の85億3,400万円と絶好調だ。

「化粧品ブランドはフランスが強い。でも、美容機器は、小さくて精巧なものをつくるという日本のイメージを生かせます。この市場なら、日本発のグローバルブランドをつくれる」

道なき道を歩いてきた山﨑。その目には、グローバルブランドになる道筋がすでに見えているようだ。


やまざき・きみよ◎1961年、徳島県生まれ。お茶の水女子大学卒業。1983年、ヤーマンに入社。86年に取締役マーケティングマネージャー、89年に取締役海外業務部長に就任。99年2月より現職。業務用から消費者向けにかじを切り美容機器の市場を切り開いてきた。

文=村上敬 写真=熊仁広之

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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