発掘は謎解き 知られざる「水中考古学者」の魅力

撮影=藤井さおり

ユネスコの推計によると、世界には約300万隻もの沈没船が存在するという。それも低く見積もってだ。

その沈没船などの遺跡を研究材料に、海に潜り発掘調査を行う「水中考古学者」という職業がある。

山舩晃太郎(やまふねこうたろう)はその一人。世界中で調査・研究にあたっている彼は、「この職業を多くの人に知ってもらいたい」と、7月15日に著書「沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う」(新潮社)を発売した。

あまり馴染みのない「水中考古学者」について、山舩にその魅力を聞いた。

トレジャーハンターとは正反対


水中考古学者は、大学教授や博物館の学芸員として働きながら調査など行うのが一般的。それぞれが専門分野を研究し、考古学者として発掘品にどんな歴史背景が存在するのかを研究で明らかにする。

いずれは誰もが見られるように整備して博物館に収蔵するという、文化的役目を持つ職業なのだ。

しかし著書や取材の中で山舩は、水中考古学者が誤った認識をされていることを強調する。

「水中考古学と聞くと、多くの人が財宝の引き上げだと考えてしまう。でもそういう“トレジャーハンター”は完全に盗掘者で、水中考古学者とは正反対」だと言う。

例えば、古墳をブルドーザーで破壊し、中に眠る埋蔵品や金銀財宝を盗んで売ってしまう。これがトレジャーハンティングだ。中には、海洋考古学者と名乗り、架空の論文や学会を作りハンティング活動を行う悪質な業者も存在する。

水中で謎解きをする


山舩は幼い頃からプロ選手を目指し、法政大学まで野球一筋で来た。水中考古学者を目指すようになったのは卒業論文のテーマを決めるため、文献を読み漁っていた時だ。たまたま水中考古学に関する者の記述を発見した。

「こんな面白そうな職業があるのか、と衝撃が走った」

読めない英語の書籍も取り寄せ、写真を見てその世界に一気にのめり込んだ。考古学の名門である、アメリカ・テキサスA&M大学への入学を目標に決めると、野球部を引退後、「幻覚や幻聴が聞こえるほど」猛勉強をしたという。無事に合格し、大学院では博士号を取得した。
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文=露原直人 写真=藤井さおり

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