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2021.08.01

渋沢栄一の言葉は、心に刺さるタイミングがある

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、SALES ROBOTICS代表取締役社長CEOの内山雄輝が「論語と算盤」を紹介する。


『論語と算盤』は、東京ガスや王子製紙、キリンビールなど数多くの企業の創業に携わった実業家であり、日本経済の父とされる渋沢栄一が、「どんな仕事をするなかでも、道徳的な視点と利益を追求する視点を持たなくてはいけない」と説いた経営の指南書として、経営者をはじめ多くの方に読み継がれてきました。

日本のIT業界をけん引し続けてきた先輩経営者に、「君はもう一度、『論語と算盤』を読んだほうがいい」と言われたのは、約2 年前。そのころの私は、大学時代に起業した会社が東証一部上場企業の傘下に入り、これまでとは違う「経営」と向き合い始めていました。

実は、以前、読んだことがありましたが、内容はまったく記憶に残っておらず、しかも、大学時代に論語などの原書を、漢語辞典を片手に苦労して読んだ経験もあって、正直、かなりの及び腰でした。が、尊敬する方からの薦めです。さっそく読み直してみることにしました。

驚いたのは、ページをめくるごとに、渋沢の教えが心に突き刺さってきたことです。特に、「成功は、人としてなすべきことを果たした結果、生まれるカスに過ぎない」という言葉は、衝撃でした。

自分も含めて、若い経営者のなかには、ビジネスでどれだけもうけたのか、どれだけのお金を集めたのかということにこだわり、目先のお金もうけに走りがちな人も多くいます。運よくお金を手にすると、さらに稼ぎたくなるといった悪循環に陥り、自分が何のためにビジネスをしているのか、自分は何をすべきなのかを見失い、気づかないうちに、お金に踊らされているのです。

渋沢も「利益が欲しいという気持ちで働くのは当然で、これは成長には欠かせないもの」と説く一方で、「長く続く事業を生み出すためには、儲けたいという思いだけではなく、社会のためになる道徳に基づかなければならない」と指摘しています。

こう考えていたからこそ、渋沢は、後世に残る多くの事業を生み出せたのでしょう。

いま、私が最も優先すべきは、周りにいてくれる仲間や、かかわる人々が幸せになることです。働くことに価値を見いだせるプラットフォームを提供し、このプラットフォームに足を踏み入れてよかったと思ってもらえる環境を整える。がんばってよかったと思える場をつくることこそが、経営者としての私の役目だと考えています。

前述した先輩経営者がなぜ本書を薦めたのかは、まだわかりません。でもきっと、それを理解することができるまで、私は本書をことあるごとに読んでいるはずです。


title / 論語と算盤
author / 渋沢栄一
data / KADOKAWA 836円/320ページ


しぶさわ・えいいち◎1840年、埼玉県生まれ。一橋慶喜に仕え、家政の改善などに実力を発揮。27歳で欧州諸国を歴訪し、静岡に「商法会所」を設立。その後、大蔵省に招かれ、新しい国づくりに携わる。73年、「第一国立銀行」の総監役(後に頭取)に就任。株式会社組織による企業の創設・発展に寄与した。1931年死去。
うちやま・ゆうき◎早稲田大学卒。2004年にWEICを設立し、中国語のeラーニングサービスを展開。14年には、営業の自動化を目指す、クラウドインサイドセールス事業を開始し、15年に、現在の主力サービス「SALES BASE」をリリース。18年には、教育ビジネスを売却。

文=内山雄輝 構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN No.083 2021年7月号(2021/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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