自分が壊される場所にあえて行く。定期的に恥をかく──為末大の成長戦略

2012年日本選手権での現役最後のレース(Kiyoshi Ota/Getty Images)

2012年日本選手権での現役最後のレース(Kiyoshi Ota/Getty Images)

陸上競技400メートルハードルの選手として、2000年シドニーオリンピックに出場。2001年の世界陸上エドモントン大会と、2005年の世界陸上ヘルシンキ大会では銅メダルを獲得し、為末大さんは、世界陸上選手権におけるトラック種目で、日本で初めて2つのメダルを獲得した選手となりました。
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2003年からは、「プロ陸上選手」として活動し、2012年に惜しまれつつ現役引退。現在は、人間理解のためのプラットフォーム「為末大学」の学長、アジアのアスリートを育成・支援する「一般社団法人アスリートソサエティ」の代表理事などを務めています。

私は何度も取材する機会に恵まれましたが、何より驚いたのは、世界的アスリートがいかに凄まじい努力をしているかでした。

ハードルという種目を選んだ理由


400メートルハードルは、陸上競技のなかでも最も苛酷だと言われています。高さ91.4センチメートルのハードルが、35メートル間隔に計10台。障害を越える際の減速をいかに抑え、効率良くペースを分配できるかがレースの決め手となります。
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世界記録は46秒70。トップの選手は47秒台で走ることを要求されます。

「ハードルを跳びながら100mを12秒以内で走らなければならない計算です。それが4度続くと考えてください。人間が蓄えておける酸素量には限界があります。約35秒で蓄えた酸素を使い果たしますが、ハードラー(ハードルの選手)は、それを超えてからが本当の勝負どころです」

こう語る為末さんは、よく練習で300メートルダッシュを3本ワンセットで繰り返していたそうです。

「インターバルは45秒。酸素は血液に十分に供給されません。すると、酸欠を起こして、目の前がだんだん真っ白になっていきます。胃に何も入っていない場合は、胃酸が食道を傷つけて、血を吐いたりします」

しかも180センチメートル以上の大男がひしめくのが男子ハードルの世界です。しかし、為末さんの身長は170センチメートルほどしかありませんでした。

「ただ、だからこそ、ハードルという種目を選んでよかったと思っています。陸上競技は持って生まれた資質の面が大きい。しかし、ハードルは技術が必要とされ、緻密で、かつ限界まで耐え抜くような厳しいトレーニングが有効となるからです」

言ってみれば覚悟や根性も大きな意味を持つのだということです。

「覚悟や根性といった心の強さがわれわれの最大の特徴だと思っています。耐えられるんです。単調でも技術習得を繰り返し、黙々と練習を続けられる。ハードルも何千、何万回と繰り返すことができる。これは外国の選手が苦手な部分です」

だからこそ、小柄な為末さんでも世界で伍して戦っていけたのです。
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文=上阪 徹

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